東日本大震災の被災地では、喉や鼻などの不調を訴える人が増えている。大気中を浮遊するヘドロ細菌を吸入してしまい、「粉じん吸入性肺炎」に罹患する人が増加しているという。「化学性肺炎」を患う人も少なくない。膨大な量のがれき類やヘドロなどの中には、臨海部の工場などで使用されていた重金属や化学物質、油類が混入しているからだ。
被災地には、九死に一生を得た命と復旧・復興に汗する人たちの命を脅かす、もう一つの脅威が存在する。それは建築物や工作物、船舶などに使われてきたアスベストだ。
ひとたび巨大地震が発生した後では、被災建築物などに使われているアスベストの飛散と、人のばく露を防止することは極めて難しい。このことは阪神・淡路大震災や、その後の新潟中越地震などでもすでに「証明」されている。
この国は、首都直下・東海・東南海・南海地震や、列島を縦横にはしる活断層に起因する地震の発生確率が高まっているといわれている。東海・東南海・南海地震の場合、連動型巨大地震が発生する可能性すら指摘されている。
いまを生きる私たちがこれまで経験したことがない未曾有(みぞう)の大震災は、「防災」とは何か、どうあるべきか―という問いを、私たちにあらためて投げ掛けている。
「建築防災」もまた然り。地震動や津波、あるいは火災などによる対人・対物被害に備えることだけが「建築防災」といえるのか。建築物は私たちの暮らしと生産活動の場だ。その大切な場から、人の命を奪い、健康を害する可能性のある危険因子を除去・管理することも、平時から取り組むべき「建築防災」の一つではないのか。
国は、いまこそ、アスベスト対策を喫緊の「建築防災」のテーマだと認識し、平時から民間建築物の中のアスベストの有無や状態を正確に調査・把握し、除去あるいは管理するナショナルミニマム(国家による最低限の保障)としての制度とその運用を確立しなければならない。