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「閾値」のない発がん物質

「閾値(しきいち)」のない発がん物質、それがアスベスト


建通ネットワーク 2011/10/14掲載

 


 国は被災地でアスベストの飛散・ばく露が起こる恐れのある状況を手をこまぬいて見ているわけではない。環境省と厚生労働省は合同で「東日本大震災アスベスト調査委員会」を設置し、環境省が10年度に改訂した「アスベストモニタリングマニュアル第4版」に準じたモニタリングを実施している。総繊維数が1g当たり1本を超過した場合は位相差・偏光顕微鏡法で確認し、10本を越した場合は走査電子顕微鏡法によってアスベスト繊維を同定する。2011年度は直轄事業として調査を実施し、来年度以降の継続的なモニタリングに向けて、調査分析手法や手順などを標準化したい考えだ。この委員会の委員であり、大学の研究チームや研究機関、民間ボランティア組織などと協働して被災地の飛散・ばく露防止活動に取り組んでいるNPO東京労働安全衛生センターの外山尚紀氏に被災地のアスベスト対策の現状と課題を聞いた。



 



外山尚紀



―大学や研究機関、民間組織など協働で行ってきた調査結果を教えてほしい。

「津波の被害を受けた沿岸部などでは、がれきの撤去が進められているが、多くの場所で依然として、アスベストを含有している可能性のある吹付け耐火被覆が放置されている。見た限りでは、飛散防止がなされているものはない」

「沿岸部の被災地には漁港が多く、海産物の倉庫や作業場が点在している。これらの施設にはスレート材を屋根と外壁に使用しているものが多く、大量のスレート材ががれきに混在するか、または残骸となっている。一部の倉庫の折板屋根にはフェルト状の断熱材が使用されており、これらもアスベスト含有の可能性がある」

「すでに多くのがれきが1次仮置き場、あるいは2次仮置き場へ移されているが、アスベスト含有建材の状況は仮置き場により異なる。アスベスト含有建材を分別して受け入れている場所がある一方で、分別はせずにボード類と混ぜて受け入れている場所や、受け入れていないにもかかわらず、実際には混ざっている場所さえ見られる」

(注)外山氏は、2011年4月以降、中皮腫・じん肺・アスベストセンター、立命館大学アスベスト研究プロジェクトチーム、財団法人労働科学研究所、地震・石綿・マスク支援プロジェクトなどと協働。数次にわたって調査を行っている。








がれきに含有建材混在 荷下ろし直近で33.9本






―石綿含有分析の結果は。

「アスベスト含有率の高い吹付けアモサイト、吹付けクロシドライトが見つかった。これらのほかにはクリソタイル含有吹付けロックウール、耐火被覆板も見られた」



―環境空気中の石綿濃度測定の結果はどうだったのか。

「気中石綿濃度はほとんどの場所で低濃度だった。がれきの除去に伴うアスベスト含有建材の除去作業は4点測定を実施。このうちの1点でわずかに環境空気中の繊維濃度の上昇がみられた」

「あるがれきの仮置き場では、クリソタイル含有の成形板をトラックから仮置き場に降ろす作業の直近で、総繊維濃度が1g当たり53・3本、アスベスト繊維濃度が1g当たり33・9本の濃度を示した」

「問題なのは、作業していた人は、自分が廃棄するために運んだ建材にアスベストが含まれていることを知らず、非飛散性のほかのがれきと同様に取り扱い、しかも適切な呼吸用保護具を使用していなかったことだ。この作業の近くでの測定では総繊維濃度が1g当たり1・47本、アスベスト繊維濃度が1g当たり0・59本であることを示した」

「がれき除去に携わる作業者はアスベスト粉じんにばく露する可能性がある。この仮置き場の近くには被災者の仮設住居や避難場所はなかったが、仮置き場によっては、避難所や居住地、学校などが近くにある。こうした状況では周辺環境へのアスベスト粉じん飛散が起こっていないとはいえない」








環境省の「廃石綿」通知 危険な解体時の拡大解釈






―被災地を回っていて、気になる点はなかったか。

「環境省は11年3月19日付で『廃石綿やPCB廃棄物が混入した災害廃棄物について』という事務連絡を関係機関と被災自治体に通知した。地元のアスベスト除去業者の話によると、被災地では、この通知を拡大解釈している事業者が多いという。被災地の建物に使われていた石綿含有吹付け材は廃石綿ではない、と誤って受け止め、負圧養生などを省いて除去することを求められることがある、とのことだった。事実であれば、これは非常に危険だし、問題だ」



―これまでの調査と分析結果をみて、何か提言はあるか。

「飛散性の高いアスベスト含有建材は被災地には少ない。だが、発がんリスクの高い角閃石アスベストの吹付けが発見されている。これらは管理と除去時の飛散・ばく露対策が必要だ」

「被災者と作業者の安全を守ろうとすれば、アスベストを含有する吹付け材、耐火被覆板、保温材、断熱材のレベル1および2にあたる建材の発見に努めなければならない。使用場所を確認し、掲示などによって、立ち入り禁止措置や応急処置などを講じる必要がある」








がれき置き場と解体現場 徹底した「飛散抑制」を






残骸となったスレートには無造作に破砕されたり、中には路盤材に使われているものもある






―このほかの注意点は。

「解体現場では少なからず、飛散防止対策を採ることもなく除去されている。アスベスト含有建材は、散水や飛散防止抑制材などによる十分な飛散防止措置を講じるべきだ。運搬時にも車両に幌(ほろ)を掛けるなど、処理するまでの過程での飛散抑制を徹底する必要がある」

「いろいろなものが混在したがれきの中からアスベスト含有建材を分別することは難しい。可能な限り分別する能力のある人材を養成して被災地に配置し、再生利用する廃棄物への混入を防ぐ必要がある」

「被災地では、がれきの除去作業が長期的に行われることになる。アスベストに限らず、有害物質が飛散し、呼吸器系疾患を引き起こす可能性が高い。防じんマスクの使い方は習わなければ理解されない。マスクフィット研修会を被災地の自治体が数多く実施することが望ましい」








「決定版」のない測定方法 どこにでもあるリスク






―被災地では、アスベストとどう向き合っていくべきだろう。

「気中濃度測定法は環境省、厚生労働省などが定めているが、環境省の『アスベストモニタリングマニュアル第4版』には複数の異なる方法が併記されている、つまり『決定版』といえる測定方法は存在していない。日本では一般環境中のアスベスト濃度の基準値が決められていない。1リットル当たり10本が基準とされることが多いが、これはクリソタイルのみを使用するアスベスト製品製造工場周辺での基準値だ。決して10万分の1または100万分の1のリスクをクリアするためのリスク評価を経た値ではない。一般環境に適用するのは適切ではない」

「アスベストは閾値(しきいち)のない発がん物質だ。広く使用されてきた結果、どこにでもあり、誰もがいつでもばく露する恐れのある健康被害リスクであることを忘れるべきではない」

「私たちは『1g当たり10本とされた基準値を超えていないから対策は不要』と考えるべきではない。すべての人が発がん物質からのばく露を最小限にするために、合理的なばく露防止策と低減策はすべて採り、そして実行することが求められている」




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