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巨大地震の教訓をどう生かす

巨大地震の教訓をどう生かす


建通ネットワーク 2011/9/16掲載


 



アスベスト「分別」は不可能 地震が起こる前に除去を




小坂浩



 東日本大震災では原発の炉心溶融による放射能汚染が極めて深刻な事態をもたらしたが、吹付け材や、建材としてわれわれの身の周りに存在するアスベストも被災地の人々の健康を脅かす有害物質である。

 震災に伴うアスベスト汚染は阪神・淡路大震災で大きな問題になった。甚大な被害を眼の前にして行政は復興活動を開始した。だが、残念なことに環境対策に十分な配慮をしたとは言い難い。大規模ながれきの野焼きによる大気汚染は周辺の人々を苦しめ、ダイオキシン汚染も心配された。倒壊建物の解体工事では現場周辺で高いアスベスト濃度がNPOや大学の研究者によって実測された。

 当時の環境庁委託調査結果の報告書によると、倒壊した建物の解体現場の空気試料を走査型電子顕微鏡で定性的に調べたところ、39の現場のうち22カ所から高い割合でアスベストが検出されている。また当時の神戸市環境保全部長はあるビルの不適切な解体工事について『解体時には周辺環境への相当な汚染があったと考えられる』と後に自身の論文で述べている。 当時、アスベスト飛散を防止するための法的整備はまったく不十分であり、加えて非常事態の中で行政による飛散防止対策はほとんど機能しなかったと言ってよい。その結果、解体現場周辺で高濃度アスベストにばく露した住民は少なくないと思われる。



 阪神大震災の後、大気汚染防止法が改正され、吹付けアスベスト除去工事は事前の届出が義務化された。しかし、飛散を監視するための空気中アスベスト濃度測定は義務化されず、多くの自治体では担当者が工事状況を確認するか、あるいは届出書類の審査をするにとどまった。

 東日本大震災では津波による被害が甚大だ。アスベストが混入したがれきの処理という、新たな課題が持ち上がっている。膨大な量のがれきからアスベストを分別することは不可能だ。環境省は「疑わしきはアスベスト含有とする」という考えで処理する方針と聞く。私はこれは正しいと考える。

今後、大都市での直下型地震の発生が予想されている。被災住民をアスベストばく露から守る最善の対策は、地震が起こる前に「建物内のアスベストを除去する」ことだ。

 国交省の調べによると、全国にはまだおよそ280万棟もの建物にアスベストが使用されている可能性があるという。正確なアスベスト調査を実施するための法律を早急に整備し、建物内のアスベストの有無を速やかに調査する必要がある。そして、アスベストのある建物のマップを全国で作成し、除去可能な建物は早急に除去工事を行なうべきだ。不幸にして除去前に地震が起こった場合は、マップを活用してアスベスト飛散対策を行なえばいい。

 解体工事からの飛散監視にはアスベスト濃度測定が必須だ。そのためには濃度測定を義務化しなければならない。これらの事柄こそが、私たちが今から準備しなければならない「防災」の一つだ。








震災時の対策は限られる 所在を把握「管理する」




寺園淳



 阪神・淡路大震災は、直下型地震による建築物の倒壊などの被害が大きく、被災した建築物などの解体に伴う吹付けアスベストなどの飛散が懸念された。当時、私は現地調査を行った上で、被災地の吹付けアスベストの蓄積量を3740d、地震が発生した翌月2月から4月まで3カ月間の解体量を331d、飛散量を13`程度と試算した。

 環境庁(当時)や兵庫県、神戸市なども飛散防止の必要性を認識し、解体に際しては、アスベストの有無の事前調査や事前除去、散水などによる飛散防止措置を実行するよう民間事業者に求めた。

それでも不適切な施工が行われた。例えば、鉄骨にクロシドライトを吹付けたマンションの現場は散水をせずに施工していた。この現場の近傍からは、1g当たり160〜250本(TEMでは全ての長さで1g当たり5300本)のアスベストが検出された。

 環境庁は一般環境濃度の追跡継続調査を17地点で実施。結果は2〜6月の一般環境濃度が1g当たり1〜2本程度(最大濃度1g当たり6本)上昇したが、この濃度であれば一般環境におけるリスクは大きくない。しかし、復旧工事従事者の中からは中皮腫を発症し、労災認定を受けた人が出た。

 一方、東日本大震災は、多量の津波被害物(廃棄物)の処理という問題に直面している。

 私は、廃棄物資源循環学会の災害廃棄物対策・復興タスクチームが作成し、4月末に公表した「災害廃棄物分別・処理戦略マニュアル」のアスベスト対策部分の執筆を担当。災害廃棄物の中にアスベストが混入しないよう、被災建築物についてはできるだけ除去・分別を行うことを求めた。

 他方、いろいろなモノが混合した津波廃棄物については、アスベスト含有建材などの分別は困難であることから、飛散性のアスベストであることが明らかな場合は回収する必要があることを指摘するにとどめた。

 ただ災害廃棄物の収集・運搬・処理の過程でも、アスベスト粉じんの飛散と作業員などへのばく露のリスクがある。このため、仮置き場では、成形板などの非飛散性アスベストも分別して保管するよう求めた。特に、災害廃棄物を再生砕石として再利用する場合、アスベスト含有建材の分別を徹底することを要請したが、現場では非常に困難な作業となることが予想される。

 アスベスト対策はこれまで、ともすれば除去方法の議論にとどまり、除去されていないアスベストの所在を把握して、使用段階から廃棄に至るまでの過程を適切に「管理する」考え方が不足していた。

東日本大震災の被災地では今後、建築物の解体が増加すると予想される。私たちは、阪神・淡路でも、東日本でも、震災発生時にできるアスベスト飛散防止対策は限られることを経験し、学んだ。この経験を次なる震災に生かす、平時からの備えが肝要だ。





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