古くは東海道最初の宿場町として、近年では電機・機械産業分野で高い技術力を誇る工業集積地として発展してきた品川区。大崎、五反田地区にソフト系企業の立地が進みつつあるほか、天王洲など港湾地区には大手企業の本社や外資系企業の国内拠点が集まっている。恵まれた立地を生かし、活力あるまちづくりをどのように進めるのか。3期目の区政に取り組む濱野健区長に聞いた。
――区政運営3期目に当たり、どのようなまちづくりを目指すのか。
「1期目は前高橋久二区長の方針を継ぎ、スムーズな区政運営を心掛けた。2期目はリーマンショックや東日本大震災などのマイナス要因が経済面にも影響し、区内企業向け融資や若年層への就職支援、防災対策などに注力した。3期目となる今期は、回復基調にある経済情勢を背景に、区の強みを前面に押し出し、区政運営を万全なものとしたい」
――区の強みとは。
「交通に関する利便性の良さが品川区の強みの一つ。隣接する羽田空港や東海道新幹線品川駅へのアクセスもよく、京浜東北線や湘南新宿ラインなどは中距離交通として利用されている。また、区内には40の駅があるほか、路線バスも充実している。さらに、品川駅は名古屋駅までを40分でつなぐリニア中央新幹線の発着駅にも決まった。ビジネスや観光分野の発展を視野に入れた「人」や「モノ」の集積地として期待ができ、外貨の獲得にも貢献できるのではないか」
――開発など今後の地域活性化策はどのようなものを考えているのか。
「現在、北品川五丁目、目黒駅前、大井一丁目、武蔵小山駅周辺などで市街地再開発事業をそれぞれ進めている。このほか開発に向けて動き出しているのは、大井町地区、五反田地区、荏原地区、品川駅南地区。地域住民や東京都と協議を進め、開発や共同化などの事業を実施することで、各地区が抱えている課題を解決していきたい」
――2020年に開催される東京五輪に当たってはどのような施策を展開するのか。
「品川区はホッケー、ビーチバレー、ブラインドサッカー、脳性麻痺者7人制サッカーの4種目の会場となる。開催中は多くの人や車の来訪が予想され、すでに環境への配慮と全ての人に優しいまちづくりに向けた整備を進めている。2015年度予算では、会場周辺道路のバリアフリーや無電柱化などの環境整備工事を実施する。また、国家戦略特区の指定を受け、旅館業法の規制緩和を受けることになっている。五輪後も見据え、外国人や地方の住民が気軽に泊まれる環境を整える」
――高齢者福祉に対する施策は。
「高齢化が加速する中で、高齢者向けの福祉施設は今後も増やしていく必要がある。新たな施設では、旧杜松小学校の校舎を活用した地域密着型の特別養護老人ホームを昨年12月にオープンしたほか、平塚橋会館跡で特養機能を盛り込んだ高齢者福祉施設の建設を進めている。今後も特別養護老人ホームや老人保健施設を整備するほか、NTT東日本関東病院をはじめとする民間病院と連携した地域包括ケアシステムを早期に構築したい」
――教育の新たな課題とその対応は。
「小中一貫教育はこれまでに施設一体型の一貫校を6校開設した。小学校から中学校への進学に伴う学習・生活指導の連携の悪さを解消し、一貫したカリキュラムを実施することで個性と能力を伸ばすなど、一定の効果を挙げてきた。今後は、設備の充実、既存校舎のリニューアルなど新たな教育への取り組みを進めるための施設整備を行う。具体的には、芳水小学校の改築に向けた基本設計に着手するほか、後地小学校、第四日野小学校などを順次改修し、施設・設備の充実を図りたい」
――地元建設業者に対し期待することは。
「課題となっているのが、入札の不調・不落。リスクの高い工事や専門性の高い工事が敬遠される傾向にあるが、労務費や材料費の高騰を踏まえ、区としてもしっかりと予算を上積みし、発注していく。受注者が適正な利益を出せるよう配慮していきたい」
「また、多くの区内企業が加盟する品川建設防災協議会とは『災害時における応急対策業務に関する協定』を結んでいる。有事の際に頼りになるのは地元の建設企業だ。防災や、より良いまちづくりに向け、今後も区民のための区政運営に協力していただきたい」
〈開発事業〉
▽大井町地区―大井町駅から区役所の中間にあるJR東日本の広町社宅が、建物の耐震性能の問題から社員が退去し、その後手付かずの状態。防犯・防災・地域振興対策の観点から早期の対応が必要となっている。土地の有効活用に向けた協議をJR東日本と行い、開発などの方向性を早期に見いだす。
▽五反田地区―駅の東西ともに街区が小さく、老朽化が進む建築物も多い。西五反田2丁目で小規模街区の統合や幅員の狭い区画道路の再配置など大街区化を計画。現在、地域住民との協議を進めている。
▽荏原地区―区画が広く小街区化が必要な地域もある反面、中心部には木造住宅が密集し、緊急車両が通行できない道路もある。地域活性化だけでなく防災の観点からも、防災街区整備事業や区画整理事業などの手法を選別する。
▽品川駅南地区―旧東海道品川宿としての歴史や文化を持ち、品川・大崎・天王洲などの商業地域に近接する立地にありながら、人口の停滞や高齢化などが進み地域の活力が衰退傾向にある。品川駅の南の玄関口としてふさわしいまちを実現するため、品川第1(八ツ山橋)踏切の解消などを含めた地域全体のまちづくりについて、地元協議会と連携を図るなど関係者と協議を進める。
〈福祉施設整備〉
▽上大崎三丁目の国有地「旧最高裁判所宿泊所みやこ荘」跡地に特養や認知症グループホームなどの機能を持たせた複合高齢者福祉施設を建設する。現在、実施設計を進めており、15年度の着工、17年度中の完成を目指している。
▽北品川五丁目の御殿山小学校敷地西側に老人保健施設の整備を計画。現在、敷地東側で新校舎を15年2月までの工期で建設しており、15年度中に敷地西側の既存校舎を除却するとともに、設計作業に着手する。