建設業界を女性が活躍できる業界にしようという動きが高まっている。将来の担い手の確保が大きな課題となっている建設業界にとって、女性の入職者を拡大する取り組みは、単に女性の数を増やすだけでなく、誰にとっても働きやすい職場になっていくことにつながる。愛知県建設業協会が開いた座談会で、建設業界で働く女性たちに建設業の魅力や課題を話し合ってもらった。彼女たちの話から、建設業界が誰にとっても働きやすい、魅力ある業界になるためのヒントが見えてきた。
【出席者】
・村橋 敬子さん(大島造園土木) 入社約12年。設計施工管理。
・藤原 愛子さん(小原建設) 入社約9年。建築積算部門。
・高橋 里枝さん(関興業) 入社約1年。土木施工管理。
・小林 万希子さん(中部土木) 入社約1年。土木施工管理。
・松崎 緑さん(塚本鍜冶工業) 入社約1年(鉄骨検査業務経験約7年)。鉄骨構造検査部門。
・宮本 祐里さん(徳倉建設) 入社約1年。建築設計部門。
司会 建設業を選んだ理由からお話しください。
村橋 緑に関わる仕事、環境をよくする仕事をしたいと思っていて、結果的に緑を造る造園業に関わることになりました。入社して主に計画図面、提案書の作成をしてきました。自分が書いた図面の現場監督をすることもあります。
高橋 実は大学は文学系で、建設業とは全く関係ありませんでした。大学で就職活動を始めたころ、特にやりたいことが見つかりませんでした。私の家は水道関係の会社を自営しており、父の背中を身近に見て育ちました。重機を見ているうちにこの仕事をやってみたいと思い、大学卒業後に建設の専門学校へ行きました。
小林 私も文学部の卒業です。就職活動ではさまざまな業界の面接を受け、結果、ここに内定をいただいたので入社しました。施工管理課に配属され、現場に出向いて書類の手伝いをしています。
藤原 私は大学が建築学部でした。高校生で自分の進路を考えた時に、ものづくりが好きだと思い、将来的にそういう仕事がしたいと建築学科を選びました。入社当時からずっと積算の仕事をしています。
松崎 私は母から、「これからは女性も手に職があった方がいい」と言われ、建築の道を選びました。高校から建築に進み、大学も建築学科です。以前は20年近く住宅の現場監督をしていました。その後鉄構の世界に入りました。
司会 実際に入職してどんなやりがいを感じていますか。またどんな仕事が印象に残っていますか。
松崎 子どもに「これママが造ったお家だよね」と言われた時、とてもうれしくて、息子に恥じないものを造らなくてはいけないと感じました。
鉄構の仕事では、主に溶接部の中に欠陥がないか、超音波で調べる業務をしていますが、人が見えないものを見るということに難しさとやりがいを感じます。指摘した部分が直ったときはとてもうれしいです。そしてそれが半世紀以上残っていくわけです。やりがいと、また逆に責任も感じます。
藤原 積算の部署は悲しいことに褒められることはあまりありません。8年間続けてきた中で、この部署のやりがいは何だろうと思うこともありましたが、仕事が受注できて初めて利益が出せる可能性が生まれます。受注できることが私にとってのやりがいだと思っています。
高橋 河川工事の現場で、既存の橋を壊すところを初めて見ました。間近で衝撃的な場面を見て、振動も感じ、また、壊して新しいものを造るのだということを感じて、すごいなと思いました。
今は電線共同溝の現場にいますので、終わった後には見えなくなります。人には見えないけれど、その道を通ったときに私にしか見えないものがあると思うと、とてもやりがいを感じます。
司会 建設業界で働いていて、女性であることが生かせると感じることはありますか。
松崎 住宅の現場監督は女性の方が向いていると思います。例えば、将来的に手摺りを付けられるようにしておこうとか、料理をしながら子どもが見えるようにカウンターを低めにしようとか、女性でしか気付けないことがあると思います。鉄構の仕事でも、細かいところに気がつくとか、女性の方がきっちり仕事をしている印象です。
藤原 住宅だけでなく、私たちが造る事務所ビル、店舗などの建物は女性も使うものです。女性の目線で使い勝手やデザイン性を考え、それを生かしていくということはもちろんあっていいはずです。
宮本 今はいろいろな会社に女性社員が増えていると思うので、例えば女性用トイレや給湯室に対する要望など、男性では深く聞きにくいことについて細かい意見を聞くことができると思っています。
司会 女性用トイレや更衣室など、女性の入職を促す取り組みが広がっています。より利用しやすくなるには何が必要でしょうか。
村橋 私は仮設トイレは極力使いません。個室が隣り合っていることに少し抵抗感があります。以前の現場では、男性用トイレの前を通らないと女性用トイレに行けませんでしたが、動線を考慮して工夫すればいいと思います。設置時の配慮で改善できることなので、もう少し考えてもらえれば嬉しいです。
高橋 今の現場事務所ではトイレは完全に男女別で、女性トイレにはブルーシートをかけて囲ってもらっていますので、入り口が直接見えなく安心感があります。私の現場も男性用トイレの前を通らないと入れない配置なので、設置するときに考えればできるだろうと思います。
宮本 現場研修の際、トイレは男女別の仮設トイレでしたが、音が気になりました。自分が入る時は、時間を選んでいました。
小林 中部土木の関連会社はトイレカーのリースもしており、各現場に絶対にトイレカーが設置されているのでトイレで困ったことはありません。音の問題も全く聞こえないので気になりませんし、水洗トイレなので臭いも気になりません。
司会 働きやすい業界にするためには、就業環境の改善も欠かせません。会社のサポート体制はどうでしょうか。
宮本 土木の現場監督をしていた先輩社員で、産休後、子どもが小さい間は時短で内勤の仕事をしている方がいます。今後も同じように対応をしてもらえると思うので、特に不安はありません。先輩にそういった方がいると、同じ立場になったときに相談もできるので心強いですね。
藤原 やはり結婚して子どもができて辞めていくという人が多いです。どんなに制度ができていても周りの目というのはやはり気になってしまうと思います。
村橋 私は今、時短制度を利用しています。何人かいる現場なので他の人にサポートしてもらって成り立っていますが、自分一人で担当する現場では、正直両立は厳しいと思います。高橋さんのように現場で働く女性が、ずっと続けていくイメージが持てるためには、なるべく仕事を共有していくことが大切です。
産休を取得して復帰したのは私が2人目で、上司も不安があるし、私自身もできるかどうかやってみなければわからないという状況でした。ひとくくりの制度ではうまくいかないと思います。産後3カ月でもう働きますという人もいますし、1年自分で面倒を見たいという人もいて、ケース・バイ・ケースです。特に産休の事例がない会社は、その場にいる上司と本人、同僚でよく話し合っていくしかないと思います。何人か繰り返すとお互いに慣れてくるところもあるでしょう。会社側にとにかくやってみようという思いがあるかが大切だと思います。
松崎 私も仕事の共有というのはとても大事なことだと思います。私は、子どもが生後3カ月くらいで保育所に預けて働いていましたが、その時の上司が本当に理解のある人でした。やはり誰かが理解してくれてサポートしてくれると、続けられます。
司会 女性の数が増えれば解決することも多いと思います。どうしたら女性の入職者を増やせるでしょうか。
小林 私のように業界を絞っていなかった人をいかに建設業に入職させるかがポイントになると思います。文系だと、建設業の会社に入って、やることがあるのかなと思ってしまうので、さまざまな業界が参加する企業説明会で、文系でも大丈夫ですということも伝えた方がいいかもしれません。
高橋 今の現場で仮囲いにフォトギャラリーを掲示しています。近くに高校があるので、建設業はこういうことをやっているとアピールできると思っています。
それから、ぴったり合った安全靴のサイズが少ないことが気になります。女性の入職をアピールするには細かな気遣いも必要だと感じます。
松崎 確かにきつい仕事ですが、造ったものがそこに残るということは自分の誇りと自信になると思います。「ものをつくることは楽しい」「人間の力ってすごい」ということをもっと伝えていくべきだと思います。
藤原 女性は仕事に対する考え方や働く目的が男性に比べて幅広いです。会社はそれぞれがどういう目的、思いで働いているかを個々に知った方がよいと思います。どこを目指して働いているかを知れば、時短で働くという選択もあるし、これをやってもらわないといけないなどと踏み込んでさまざまな選択肢を用意できます。また、私たち女性もどういう思いで仕事をしているかを積極的に会社に伝えていけば、もう少し働きやすくなるでしょう。
宮本 仕上がった建物はきれいですが、建設現場はきつい・汚い・危険の3Kのイメージが強く根付いています。技術者として実際に女性が働いている姿を見せる機会がたくさんあったらいいなと思います。実際に活躍している女性技術者を見て、自分も頑張ってみたいと思った方が入社されれば長く続くと思います。