防災活動や景観形成の妨げとなる電柱・電線の新設を原則禁止する「無電柱化推進法案」の成立に向けた準備が進んでいる。2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会を控えた東京都では、快適で美しい都市景観の形成、首都直下など巨大地震への備えとして、重点的に事業を推進しており、法案が成立すれば、無電柱化の取り組みがさらに拡大することが期待されている。
電柱は国内に約3500万本あり、年に約7万本のペースで増えている。国土交通省によると、無電柱化率(道路延長に対する無電柱化延長の比率)は東京23区が7%で、100%のロンドンやパリ、香港など海外の主要都市と比べて低い水準にある。
無電柱化の推進は、電線のない美しいまちづくりだけでなく、災害時の電柱倒壊を防止することで、避難や救急活動、物資輸送に必要な道路の安全性を向上させるといった防災機能を強化する。一方、施設整備に掛かるコストが高く、その必要性が市民に理解されていないといった課題もある。11月10日は「無電柱化の日」。無電柱化をめぐる動きを追った。
電気事業者などに対して道路新設や拡幅時の電柱設置を原則として禁止するとともに、道路整備などに併せて既設の電柱・電線の撤去を求める。国や自治体には電線を地下に埋設する無電柱化の推進を責務とし、「無電柱化推進計画」の作成を義務付ける。
また、国や自治体と連携して、電線を地下に埋設する簡便な方法の確立やコスト削減のための調査研究、技術開発なども促す。法案は、自民党・無電柱化小委員会(小池百合子委員長)が議員立法として成立を目指している。法案提出は2016年以降となる見通しだが、無電柱化推進に対する国民の意識改革、無電柱化事業への理解向上が期待されている。
無電柱化に積極的に取り組む市区町村が集まった「無電柱化を推進する市区町村長の会」(会長・山下和弥奈良県葛城市長)が10月20日に発足した。景観形成、観光振興の観点から無電柱化を強力に進めるよう、政府に働き掛ける。
市区町村長の会には、全国の市区町村長212人が参加。政府や電気事業者などと連携し、防災・観光・景観の観点から、無電柱化を推進することを目的として発足した。会長に就いた山下葛城市長は「各地域の声を吸い上げ、無電柱化推進の機運を高めたい」と呼び掛けた。
設立総会には、太田昭宏前国土交通相も出席し「大臣在任中の心残りの一つが無電柱化だ」と述べた。自民党・無電柱化小委員会の小池百合子委員長は「今、日本には桜の木と同じ数の3500万本の電柱がある。景観や防災の観点からも、低コストで無電柱化を進める手法を国の主導で検討する必要がある」と、設立総会に出席した市区町村長らに法案成立への協力を求めた。
東京都は、15年12月に「東京都無電柱化推進計画(第7期)」を策定し、18年度までの5カ年で都道・区市町村道を合わせた延長916`の無電柱化を推進する方針を打ち出した。山手通りと荒川に囲まれた「センター・コア・エリア」内では、計画幅員で完成している晴海通りや清澄通り、環状7号線などの都道の無電柱化を20年の東京大会までに完了させる。競技会場や観光施設が数多く点在する同エリアを優先して整備し、その後、周辺区部(センター・コア・エリア外)や多摩地域での整備に重点をシフトするとともに、緊急輸送道路など都市の防災機能の強化につながる路線で事業を展開する。
都道の整備対象延長2328`に対する13年度末の整備済み延長は819`で、地中化率は35%。このうちセンター・コア・エリアでは整備対象延長536`に対して457`の整備を完了している。
都では20年大会に向けて、まずセンター・コア・エリア内の晴海通り、清澄通りなどの都市計画道路の他、会場予定地周辺の環状7号線(葛西・東海)の無電柱化を19年度末までに完了する。また、競技会場周辺などの区市道では、補助率の割合を引き上げて事業推進を支援する。これまでは国交付金などを控除した額(現行45%)の2分の1を都が補助していたが、その全額を都が補助。実質的に区市の負担をゼロにして無電柱化を促す。
さらに、事業を円滑に進めるための方策として、低コストの事業手法の採用や電線共同溝方式の構造のコンパクト化を検討するとともに、電線管理者が所有する管路やマンホールなどの既存施設を電線共同溝の一部として活用することでコスト縮減・工期短縮につなげる。歩道がなかったり幅員が狭い道路では、地域の実情に応じて「軒下配線」を検討したり、地上機を公園などの公共施設や民地に設置することも検討していく。
国土交通省は、無電柱化のコスト縮減に向けて、総務省、経済産業省、電気・通信事業者と連携した試験施工を実施している。従来手法よりもコスト低減が見込まれる「直接埋設」や「小型ボックス活用埋設」などの施工性を試験施工で検証するものだ。これまで、舗装に直接埋設したケーブルの傷・変形などを分析するための試験施工を行うなど、実用化に向けた技術的な検証を行っている。
7月31日の無電柱化低コスト手法技術検討委員会では、「電力線と通信線の離隔距離確認試験」と「直接埋設、小型ボックス活用埋設の施工性確認試験」の施工結果を確認。離隔距離確認では、保護対策を講じれば電力ケーブルと通信ケーブルの離隔0aでの敷設が可能とされた。施工性確認試験は、直接埋設などの結果を受け、継続して検証する項目を整理した。
(2015/11/10)