全国で約820万戸に上る空き家。神奈川県司法書士会によると県内の空き家は約49万戸あり、さらに約12万戸が空き家予備軍であるという。
空き家が増えるということは住む人がいなくなるということ。人がいなくなるとまちはその機能を失い、徐々に"限界集落"に向かう。それは地方だけの話ではなく、ヨコハマのような都会であっても同じ。空き家は人口の減少とともに増えており、全国共通の課題だ。
空き家の中でも問題なのは、日常的に使用されず所有者が分からない空き家だ。朽ちて倒壊し通行人にけがをさせたり、雑草が生い茂りハチなどの害虫が発生する原因となったり、不審者が侵入したり、ごみが不法投棄されたりする恐れのある"特定空家"をどうするか。
特定空家に対する危機感は全国的に高まり、議員立法により「空き家等対策の推進に関する特別措置法」(空家特措法)が成立。2015年2月に施行され(関連の規定は5月)、特定空家の所有者を把握するため自治体は税情報の内部利用や空き家除却の代執行が可能になった。
しかし、空き家問題は建物の除却がゴールではない。空き家や空き地を地域資源と位置付け、資産として生かすことが望ましい。そのカギを握るのは地域のコミュニティであり、地域住民である。
どうする空き家。空き家は地域資源。
生かして住みよいまちづくり
横浜市建築局によると、市内の空き家(一戸建て)の数は2013年時点で約2.9万戸。空家率は10・09%で全国平均と比べて低いが、08〜13年度の空き家の"増加率"は、11・02%と高い傾向にあるという=図=。 空家特措法の施行を踏まえ、横浜市は15年8月に空家等対策協議会を設置し、県内の自治体で初めて「横浜市空家等対策計画」の策定を開始した。対象は一戸建て住宅の空き家。取り組みの柱は@空き家化の予防A空き家の流通・活用促進B管理不全な空き家の防止・解消C空き家に係る跡地の活用―の四つ。それぞれについて具体的な施策を検討するとともに、関係区局や民間団体との連携を強化している。
〜保育施設や福祉の拠点に活用〜
こども青少年局は14年度、保育所整備に向けた運営事業者とのマッチングで、対象物件に空き家を含めて募集。建築局は子育てりぶいん事業に空き家の活用枠を設け、健康福祉局は、小規模多機能型居宅介護や地域子育て支援の事業実施場所に空き家の活用も呼び掛けている。
空き家対策で15年3月に横浜市と連携協定を締結したのは▽横浜市建築士事務所協会▽神奈川県司法書士会▽神奈川県宅地建物取引業協会▽全日本不動産協会神奈川県本部横浜支部▽横浜プランナーズネットワーク▽横浜弁護士会―の6団体。7月には神奈川県土地家屋調査士会も加わり、本格的な対策の検討体制が整った。
民間による空き家の利活用ではさまざまな"活用策"が提案されるが―。建築局企画課の鈴木和宏課長は「大学と連携して地域に開かれたシェアハウスを運営しようという案があるが、建築基準法など制度面で制限がある。空き家や跡地を地域のために活用しようという夢も膨らむが、運営資金をどこから捻出するのか見通せない」と、課題を指摘する。そもそも空き家は個人(法人)が所有する資産で、民間で解決すべき話である。それでも空き家対策のロードマップをつくるため「アイデア出しをしないことには議論が始まらない」と各方面に知恵や意見を求め、「理想に向け行政ができる支援策を考える」と話す。
横須賀市は2015年10月、空家特措法に基づき特定空家に該当する老朽危険家屋を除却した。これに先立つ3月には建築基準法に基づき、老朽危険家屋を除却している。いずれも神奈川県内で初めての事例だ。
建築指導課の松尾啓意(まつお・ひろおき)氏によると、10月に除却された"特定空家"は昭和初期(推定)までに建築された木造平屋60平方bの建物=写真=。12年10月に近隣住民から「20年近く放置されている」と相談が寄せられて以来、所有者を探してきたが分からずじまい。14年6月には建築基準法で略式代執行を検討するも、執行の条件である"所有者がいないことの証明"ができず、断念した。そして15年5月。特措法が施行され税情報を取得して調査を行った結果、物件に法人名で登記のあることが分かった。ただ、その法人は既に解散していて所有者の確知には至らなかった。ここでようやく代執行の条件を満たし、10月に解体工事に着手したと話す。解体費用は150万円。税金、市民の負担だ。
谷戸などに空き家が目立つ横須賀市。これまでに61件の苦情や相談が寄せられ、指導などを行っている。所有者が分からない空き家については、特措法が施行されなかった場合は「条例改正などを行い、即時執行などにより危険部位の除去を行う」考えだったという。
さて、空き家を撤去した後の空き地をどうするか。代執行した2件の跡地は現在も更地のまま。10月に除却した土地は登記はあるものの、固定資産税の支払いがない。今後、所有者が名乗りを上げなければ税滞納による差し押さえ処分となる。
公売の先に活用策はあるのだろうか。
==「空家等対策の推進に関する特別措置法(空家特措法)」では、▽市町村による空家等対策計画の策定▽空家等の所在や所有者の調査▽固定資産税情報の内部利用等▽データベースの整備等▽適切な管理の促進、有効活用―に取り組むこととした。倒壊の危険や衛生上有害となる恐れのある空家を自治体が「特定空家等」に認定し、所有者に対して除却、修繕、立木竹の伐採等の措置の助言又は指導、勧告、命令が可能となり、さらに、要件が明確化された行政代執行の方法により強制執行が可能となった。==
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