―千里山キャンパスの歴史的、建築的価値をどう捉え、キャンパスデザインを考えられたのでしょうか。
星田 村野藤吾が手掛けた数多くの建築の個々のデザインの評価以前に、自然と地形の豊かな広大な敷地の中で、建築を単体でなく群としてどのように配置し、大地をどう扱って来たのかが焦点の一つになりました。キャンパス空間全体で見れば、村野さんの設計したものとは、建築でありながら、広場でもあり、街路でもあると考えられます。村野さんのたくさんの試みや価値に、私たちが一度に全てを解釈して対峙するのはそもそも無理な話です。その都度、村野さんが何を思ってきたのかを一生懸命考えています。
市原 建築的価値と合わせてこの緑の空間的価値を保存、活用することが重要だと捉えています。千里山は今、学生や先生ら約3万人がいる一つの大きな街です。それに見合ったまちづくりの視点で検討しています。
―村野藤吾の建築などについてはどういう印象ですか。
星田 村野事務所の当時の図面を見ていくと、この広い敷地の中でも地形の尾根筋や谷筋、脈のようなものをうまく読み込み、自然や地形に応答して何度も修練を試みながら建築を置いていることが分かります。一つのゾーンの中ではある程度配置の統一感がありますが、ゾーンごとの向きは地勢に配慮して構成されています。ゾーン内の建築の並べ方も、場所の微地形をうまくたどりながら、将棋の桂馬のような動きをしながらつなげつつずらしたり、必ず複数の建物で挟み込んだり囲ったりして、自然を残しながら中庭や広場を生み出す努力がうかがえます。スロープの名作が多かったのも特徴で、ちょっとした山の道行きをうまく景色が抜けて見えるように意識していることも分かります。
市原 学校側からこの辺に立てたいというわがままな要求もあったと思いますが、村野さんの頭の中でうまく建築群として配置を整えていったのかなと思います。
―ガイドライン作りで課題はありましたか。
星田 新しい機能や技術的要求と自然とをどう融合するか、村野さんが工夫した大地と建築が調和する配置などとどう折り合いをつけるか、キャンパスの公共空間をどう豊かに残し、再構築するかが最初の議論となりました。地域も含めた全体の中での空間・人間・社会の価値を明らかにして大切なものを引き継ぐ、都市論の原点のようなことから議論して、理念型のガイドラインを作ろうとしました。
市原 マスタープランを作って無理やりプラン通りに実行させるのも本末転倒ですし、ガイドラインという形で理念的なことを示したのです。巨大な開発はしない、今ある空間や緑をできるだけ損ねないという共通認識は持てたかなと思います。
星田 これまでの都市づくりにおいてもエリア全体のプランをマネジメントする側と個別のエリアで開発しようとする側との意識のかい離があると感じています。都市と個々の建築がうまく連動しながら良い街をつくるという仕組みが現実には機能せず、建築と都市をつなぐ空白が埋まるどころか広がっているのがこの数十年なのです。千里山キャンパスでは、できるだけたくさんの人が関わって応答的で柔軟なアーバンデザインの運営の仕方を実践していこう、新しいこれからの都市や建築の在り方を模索し直そうと考えています。
市原 ちょうど関大ではトップダウンという手法より、いろいろな部署や人のニーズを吸い上げて計画するスタイルが好まれています。
星田 全部取り入れたら巨大過ぎる建築物になってしまうくらい、ニーズはたくさんあります。例えば、昼食を食べるスペースがもっとほしいという要望があった時、新しく食堂を建てなくても軒下を使ったり、建物と建物の中間領域を使うことを薦めたり、新たな建築が本当に必要かどうか対話をしながら確認し、場合によっては我慢してもらうこともあります。キャンパスデザイン室は、基本的には「sentinel(見張り番)」のような立場と言えるでしょうか。しかしその方法は柔軟に、常に全体を見ながら四則演算のような発想でものを考えるのが役割の一つです。その成果として、アーバンデザインのこれからの在り方をリードする方法を試行錯誤していきたいのです。
―一方で、多くの意見を集約して計画を進めることも求められていると思います。
市原 使う側の先生方が私たちよりもっといい提案を持っていることもありますから、キャンパスづくりに参画してもらうことが重要だと認識しています。できるだけ多くの関係者が参加する機会を作っていくと、誰かのお仕着せのまま新しいものを使うという意識がなくなりました。
星田 第4学舎では、村野建築を維持・改修しつつ小さい建築を足していくリノベーションの方法を試みており、学術的にも意義のあるものになると思っています。いずれにしても一挙に価値観を共有できることはないですから、粘り強く説明していろいろな人を巻き込んでいます。このようにキャンパスデザイン室は、ガイドライン作りや設計案件のデザイン調整などの従来の監修だけでなく、地域づくり連携や制度研究、新しい空間機能の発案、時には設計を協働する形でクライアントとの交渉や現場レベルの理念徹底までを試みています。いわば頭でなく理念を持った手や足となってデザインの実現に協働するという新しい監修の仕方にも取り組んでいます。
―地域との連動性についてどう考えていますか。
星田 ガイドラインに盛り込んだ「地域と共生するキャンパス」という言葉が具体的になってきており、地域防災強化構想の取りまとめなど吹田市と共同で街づくりしようということが始まっています。
市原 吹田市長も施政方針などで「関大は吹田市の宝物、一緒にやっていこう」「災害弱者の受け入れをやってもらいたい」と話しており、心強く思っています。
―地域にも目を向けるのは重要でしょうか。
市原 大学としての機能に「地域貢献」という使命はもともとあるものなのです。それをもう少しはっきり打ち出し、地域に溶け込む街づくりを目指しています。
星田 関大には24時間閉まらない門があります。キャンパスの中央を通り抜けできる1本の道が公共道路や公園のような位置付けであるため、近隣住民がいつでも自由に入ることができ、散歩している光景がよく見られます。「街を招き入れる」「街に混ざり合っている」というイメージですね。
市原 新しい取り組みでは、キャンパス内に通路を新設するのをきっかけに、関大前商店会との付き合いが始まりました。一つは商店街の空き店舗に教育研究活動と地域交流の拠点となる「まち・かん114(いいよ)」を設置しました。学生が中心となってゼミ活動やイベントの段取りをしたり、町の情報を吸収したり、大学の情報を発信したりしています。
星田 地域住民らが大学に入り、大学も街に出ていくという試みが少しずつ進み出しています。みんながこうした試みを自らのこととして発信し、説明するような段階になれば成功と言えるでしょう。
市原 地域との連携は大学の機能の一つだとあらためて気付きます。吹田市にある関大の価値を高める努力は、いろいろな形でしないといけないと考えています。
人材育成が喫緊の課題として叫ばれている中、若者や女性の雇用にチャレンジし、技術の継承や働く喜びを形にしていこうと取り組む企業が大阪にある。竹延の関連会社で建設塗装を営むKMユナイテッド(大阪市都島区)。「安全や品質を伝えられるのは、一流の職人。彼らがいる今なら、まだ職人を育てられる」。そう話す竹延幸雄CEOは、建設業の経験のない若者や、職人を希望するも就労環境が折り合わず働くチャンスが見いだせない女性と向き合い、働き方や人の育て方を模索する。
今の若者には、先の見えないゴールを目標とすることに耐えきれない一面があるという。どれだけの時間、どれだけの努力をすれば一流になれるのかと、将来について計算をはじくのだ。それに対して竹延氏が出した答えは「目に見える会社をつくる」。親会社である竹延から有能な職人を招き入れ、一から教える。期間を定め教育し、本人に技術が身に付いたことを実感させる。技術面が備わってきた段階で、教える側は仕事を通したメンタル的なサポートに回る。竹延氏が「寄り添う」と表現する、技術だけではなく、仕事を通じた精神面での育みがポイントだ。
女性社員は会社にポジティブな発想を提供してくれる存在になっている。幼稚園の現場では、女性らしいきれいな作業服をまとい、環境に優れた水性塗料を園児がいる中で塗る。作業する彼女たちの姿を、子どもたちはうらやましそうに見学しているそうだ。確かな技術を持ちながら新たな発想を生み出そうとする女性のパワーは、仕事と社風に好循環を与えている。
4月からは、乳幼児のいる職人や現場管理者が安心して働けるよう、自社で一時預かりキッズルームを開設する。その名も「ペイントナビキッズルーム」。育児休職者の職場復帰、現場での朝礼参加などに対応していく環境を整える。
「キャリアを問わず、技術があれば人は認めてくれる。建設業が持つこの土壌を大切にしたい」と竹延氏。この春にも新入社員を迎える。
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