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『複業のすすめ』より 建設トップランナーの挑戦 第12回「樹木廃棄物を100%有効資源に」 株式会社鈴鍵(愛知県豊田市)

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樹木廃棄物を100%有効資源に
―ウッドチップリサイクルシステムの開発―
株式会社鈴鍵(愛知県豊田市、代表取締役梅村正裕)

※連載「建設トップランナーの挑戦」は、書籍『複業のすすめ』(米田雅子+地方建設記者の会、当社刊)の中から、新しい挑戦を行う全国の中小建設業の取り組みを抜粋して紹介しています。書籍の詳細・申し込みは http://www.kentsu.co.jp/products/book.asp

【厳しさの増す林業界に元気を】
 1960年代の日本経済は、所得倍増を目指してひた走り、工業優先の政策を進めた。工場進出はとどまることなく、70年代に入っても、「ものづくり」への猛進は続いた。国民はかつてない繁栄を経験し、衣食住のあらゆる面で豊かになり、利便性が大きく向上した。

 しかし、その繁栄の陰で、農林政策はおろそかになってしまったように思う。中でも、64年の木材輸入の完全自由化は、国内産業で最も足腰の弱い林業界にとって大きな痛手となった。木材価格は80年をピークに、昨今では3分の1まで下落し、人件費の高騰とともに、国内林業の経営は急速に悪化している。林家の経営意欲も減退し、林業就労者も4人に1人は65歳以上の高齢者となった。国内林業の将来は大変に厳しい。

 当社は、こうした何一つ明るい展望のない中で、将来の林業を活性化するため、次代を引き継ぐ青年たちの育成に取り組んだ。また、古い習慣を打破し、新しい考え方や技術を積極的に採用することで、「とにかく林業界に元気を取り戻すこと」に奔走してきた。

【大量の樹木廃棄物を活用したい】
 90年代の前半までは、さまざまな公共事業や開発工事で発生した樹木廃棄物は、その場で焼却処分されるか、そのまま廃棄されるか、あるいは野積みのまま放置される状態だった。

 しかし、焼却処分は周辺へ煙、灰、臭いなどを拡散させ、加えて火災を引き起こす心配もあった。廃棄や野積みの場合も、火災や崩落の危険があり、近隣の住民からは心配や多くの苦情が出ていた。そのような中で、「何とか大量に発生する伐採立竹木を焼却せず、資源として活用できないか」と検討を重ねたのである。

【研究重ねリサイクルシステム完成】
 90年代後半、アメリカ製の大型移動式破砕機を導入し、現場へ初めて持ち込んだ。この大型破砕機で、枝葉や幹はもちろん、大型根株までチップ化することができた。チップは、土砂が付着しているため紙パルプの原料には利用できないが、現場で循環資源として利用することができる。

 例えば、これまで現場内の法面は、降雨のたびに浮上土を作り、雨裂を生じるため正規の法面を維持するのが困難だった。これに対し、チップを厚さ10a程度散布することで、強風にも耐え、雨滴による土砂の飛散・流出を防ぐことが可能になったのである。また、保湿効果の高いチップは雑草雑木の種子を発芽させ自然緑化を推進することにもつながった。

 そのほかにも、さまざまな利用方法の研究を重ねた結果、樹木廃棄物を循環資源として100%活用するウッドチップリサイクルシステムを完成させた。

【多様なチップの利活用法】
 チップを現場で利活用する方法には、次のようなさまざまな工法がある。

■バークブロワ工法
 車両積載型チップ散布機械「バークブロワ」でウッドチップを吹き付ける工法で、法面保護や残存緑地などへのマルチングに利用できる。
 「バークブロワ」は車両本体に12立方bのウッドチップを積み込み、ホースを最大200bまで延長させて散布できる機械。5インチホースを使い100_程度の大きなチップまで散布できる。現場で発生したチップを堆肥化することなく破砕し、その場で散布するので現場内リサイクル(ゼロエミッション)が実現する。

■フィルターソックス工法
 前記の「バークブロワ」を用いて、ウッドチップを「フィルターソックス」というメッシュの筒状ネットに充填する。これを土留や小規模小堤、濁水ろ過フィルター、土壌の侵食防止など、さまざまな用途に使う工法である。ウッドチップがろ過機能を持った濁水防止剤として有効活用できる。

■カラーチップ工法
 カラーチップ工法は、その名の通り、ウッドチップに色付けしたもの。もともとは捨ててしまう廃棄物だった樹木に色を付けることで、新たな利用法が見出された。マルチングやチップロードにカラーチップを使うことで景観を向上させることができる。

■ウッドチップ樹脂舗装工
 ウッドチップ樹脂舗装とは、ウッドチップを歩行路に敷き均し、ウレタン樹脂で固めた舗装である。チップの弾力性が足腰への負担を和らげ、ふわふわとした歩き心地になる。透水性が高く雨降りでも歩きやすく、またチップを固めることによって、車椅子や自転車のスムーズな通行が可能になる。

■エコ法枠工法
 抗菌処理などにより生分解時間を調整した麻袋に、伐採材チップを詰めた円筒状の法枠を、格子状に並べる法面保護工。降雨時には、格子状に組んだ法枠が排水パイプの役目を果たすため、コンクリート法枠やプラスチック法枠に比べて排水効果が高く、法面の浸食を防ぐ。法枠は数年で分解するので、自然な景観が戻る。分解した法枠は有機堆肥として土壌に還元され、緑化も促進できる。

■竹ソダ濁水処理施設
 竹の細い枝を束ねた「竹ソダ」、または幹材を破砕して袋詰めした「竹チップ」を使用する沈砂池ろ過システムである。現場から発生した土砂を含む濁水を集めた沈砂池で、クランク状に設けた流路に数カ所にわたって竹ソダや竹チップを敷き並べる。流路には越流部を持たせて上澄みを通し、浮遊している土砂分は竹ソダや竹チップに吸着させてきれいな水にして排水できる。

■連続炭化炉
 竹のチップは、竹炭(粉炭)にし土壌改良材にする。竹炭は表面積が多く、調湿材や脱臭剤などにも利用できる。また炭化過程で出る煙から竹酢液も取っている。

【中部森林開発研究会の設立】
 当社が中心となって設立した中部森林開発研究会は、将来の林業の活性化を図るため、若手後継者の育成を目指し、「中部は一つ」を合言葉に83年にスタートした。現在は北海道から沖縄まで14支部120社余りの会員とともに、森林を通じた環境保全を目指し、工事現場などから発生する樹木廃棄物を100%有効活用する「ウッドチップリサイクルシステム」を研究開発し、完成させた。

 研究会の活動は全国の災害地の復旧にも広がっている。2005年の豪雨災害(三重県)や、04年京都府下・05年茨城県下の鳥インフルエンザの事後処理として、石灰散布にバークブロワ(吹き付け機)の技術を利用し関係自治体に協力してきた。

 また、当研究会と志を同じくする仲間とともに、国内林業の活性化を目指して仲間の輪を広げていきたい。


企業プロフィール
【会社名】株式会社鈴鍵
【代表者名】代表取締役梅村正裕
【所在地】愛知県豊田市中金町怎m本111ノ3
【電話】0565(41)2003
【資本金】2000万円
【創業年】1959年1月
【社員数】50人
【URL】http://www.szken.co.jp
【事業内容】立木伐採、産業廃棄物収集運搬・中間処理(木くず)、病害虫駆除事業、造園・土木工事、近自然工法・ビオトープ設計・施工・維持管理、ウッドチップリサイクルシステム、環境機器輸入販売、造成工事における濁水浄化装置(竹ソダ濁水処理沈砂池)、土木用資材製造販売
【複業含む就業者数(パート含む)】50人

執筆者プロフィール

米田雅子+地方建設記者の会