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『複業のすすめ』より 建設トップランナーの挑戦 第13回「木材の加工・販売で雇用を守る」 川口建設株式会社(和歌山県田辺市)

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木材の加工・販売で雇用を守る
―変化し続ける会社であるために―
川口建設株式会社(和歌山県田辺市、代表取締役川口明久)

※連載「建設トップランナーの挑戦」は、書籍『複業のすすめ』(米田雅子+地方建設記者の会、当社刊)の中から、新しい挑戦を行う全国の中小建設業の取り組みを抜粋して紹介しています。書籍の詳細・申し込みは http://www.kentsu.co.jp/products/book.asp

【雇用を守るために】
 全国的に弱体化している建設業。中でも地方の建設業(特に山間部)で働いている人たちには、これといった転職先がない。都会であればまだしも、田舎で社員を簡単に解雇するわけにもいかない。新たな事業(雇用創出)に取り組まざるを得ない必要に迫られていた。

 では、どんな事業で雇用をつくっていくのか。

 人口が少なく、限界集落に住み、周りは見渡す限り山ばかりの現状。新たな取り組みは非常に困難と感じていたが、一方で「それならば建設業よりもさらに長い疲弊状態にある林業はどうだろう」と考えた。「今すぐ商売にならなくても、資源としての可能性を大きく秘めた木材を工夫して販売することによって、雇用を守っていけないだろうか」

 しかし、ありきたりの木材販売ではコストが掛かり、利益どころか会社の赤字を加速することにもなりかねない。

 そこで検討を重ねた結果、「木は燃える」という弱点を補い「不燃化」することで、林業の川上、川下双方での雇用の実現と活性化を目指すことにした。

【売上ゼロから5000万円に】
 2001年、自己資金と金融機関からの借入金の合計1億5000万円を投じ、木材加工工場を新設した。だが、木に不燃薬剤を注入することは、非常に困難な作業であり、真空加圧法によりできあがった物体は、とても「製品」とはいえない代物。当初の2年間は売上げがゼロだった。

 迫りくる手形に追われながらも必死に製品を作り続けた。そして日々の営業活動を続けていく中でたくさんの出会い、多くの人たちの助けを得ながら、3年目ごろから成果がでるようになった。徐々に販売が増えはじめ、05年ごろには年間約5000万円の売上に達し、現在に至っている。

【バイオマスで補助金活用を検討】
 しかし建築材料としては、どうしてもコストが高くなってしまうため、これ以上飛躍的に売上が伸びることは望めない。

 未来にバトンを渡していくためには、さらなる工夫が必要である。そこで08年からは木質バイオマスに取り組むことにした。実際に事業を進めるためには、前回の投資を上回る多額な設備投資が必要だ。そこで木質バイオマスに対する補助金制度(2分の1補助)を利用しようと考えた。

 資料を集め、補助金の申請準備に取り掛かったが、その壁は想像以上に高かった。

 例えば、補助金を受けるためには、原木の仕入先と工場で生産される商品(チップ、ペレット)の販売先を明らかにする必要があった。仕入先の問題は自らの努力で克服することが可能だが、販売先を確実にするためには、木質燃料ボイラーの設置と燃料の使用量などの確約を取らなければならない。「きちんと燃料さえ提供してくれればボイラーを導入する」と言う人や団体もあったが、チップやペレットの使用量の確約となると、利用を考えてくれた方々もプレッシャーを感じたのか、結局は確約書に判を押してもらえなかった。

【チップ製造を開始、地域活性化にも一役】
 あきらめればすべてが終わってしまう。2分の1の補助金制度の申請は断念したものの、今度は経済産業省が行っていた木質バイオマスについての3分の1補助制度を活用しようと考えた。この制度は、計画の内容を厳しく審査する面では同様だが、確約書への判が必要なかった。

 結局、経済産業省の制度を活用し、当初計画より規模は縮小したが、ボイラーを自社に2カ所設置し、チップを製造するようになった。現在も小規模ながら運営を続けている。

 現状では、依然として採算ベースにはほど遠い状況にあるが、新たに地元・田辺市の協力を得て、市が管轄する温泉施設2カ所の重油ボイラーをチップボイラーに変更することも決まった。徐々にではあるものの、環境対策を含めた地域活性化(雇用の確保)の成果が広がってきたと考えている。

【木を通じた多角化】
 今後は、路網整備、間伐事業などにも積極的に乗り出し、森林整備、雇用の安定化、原材料の安価な仕入などに取り組むつもりである。その際には、10年に当社を含めた林業家、製材所、木工所などで設立したフォレスト・ウッド協同組合も最大限に有効活用したい。

 このほか、木を微粉砕し柔らかく練り上げ、ふんわりと乾燥させた粒状の形をした「吸着材」の製造・販売も検討している。ホームセンターではネコのおしっこを吸収する「ネコ砂」として販売されている物もあるが、それをヒントにあらゆる方面での使用が可能と考えている。

【木材の秘める可能性】
 天然木については、日本建築材としては優秀であっても、建物構造が変化している中で、曲がりや反り、さらに単価面で歓迎されない部分もあるだろう。

 しかし切り出された原木から出る工場残材は約30%〜40%と言われており、さらに山に残される間伐材を有効利用できれば、木は安価な原材料となる。木材の加工製品を製造すれば、他製品と比べて、価格と環境に優れた商品を生み出すことができるのではないか。
 
 ゴミ問題についても、自然からできた製品であるだけに、焼却または燃料としての使用も可能である。そうなれば、後の処分量は原形のものと比べて極端に少なくなる。今後の活用次第では、大きな可能性を秘めていると考えている。

【変化し続けることが大切】
 「林業再生」という言葉を国会でも耳にするようになった。しかし、政府やそして地方で生活する私たちが、共に高い意識や志を持たない限り、この現状を打開することは到底できないだろう。

 「念ずれば花開く」という言葉がある。本当に花を咲かすためには、念じ続け、努力し続けなければならない。険しい道程であると覚悟し、これからも挑戦、そして変化し続けていくことこそが地方活性化につながると信じ、頑張っていきたい。


企業プロフィール
【会社名】川口建設株式会社
【代表者名】代表取締役川口明久
【所在地】和歌山県田辺市龍神村小家1013ノ3
【電話】0739(77)0224
【資本金】2000万円
【創業年】1951年10月
【社員数】10人
【URL】http://www.aikis.or.jp/~kawa422k
【事業内容】土木・建築請負業、製材業、木材の不燃加工処理業、産業廃棄物処理業、産業廃棄物収集運搬業
【複業含む就業者数(パート含む)】15人

執筆者プロフィール

米田雅子+地方建設記者の会