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ストック時代の建築積算と価格情報 第6回(最終回) 「技術者の説明責任と見積書再考」

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これまでコストとプライスの違いや部位別コストの重要性、価格変動要因などを説明してきましたが、ストック時代では建物の所有者や利用者もコスト管理の基礎的知識や情報を知る必要があります。そのためにはさまざまな価格情報を身近な情報として再認識することも大切であり、特に見積書(工事費内訳明細書)の位置づけは重要となります。

見積書には、新築時に投入された膨大な資材および施工の数量と単価が記されていますが、実は名称や摘要欄には設計図や仕様書だけでは表現できない規格や施工方法などの詳細な情報も明記されています。しかし、膨大な労力を費やして作成された見積書の貴重な情報は、新築時の契約価格の根拠資料だけに用いられ、その後は建物の所有者等に伝わることなく失われてしまうことも多々あります。

ストックを管理するには建物や設備の表面と裏側がどのような仕様で施工され、今後どの程度の数量や金額の工事が発生するのか事前に把握しなければなりません。見積書がなければ残された設計図からそれらを推測し、数量も新たに積算しなければなりません。

見積書の目的は、決して新築時の契約価格算出だけではありません。金額の開示については、供給者側は抵抗を感ずることもあるかもしれませんが、原価が新築や転売後の所有者に適切に伝わらない限り価格に対する理解は得られません。むしろ、妥当と思われる価格は積極的に開示するとともに、その内容を分かりやすく説明することが、ストックを管理する当事者の安心にもつながり今後の建設業の発展にも寄与すると考えます。

建築のLCC(ライフ・サイクル・コスト)は、維持管理費が新築費よりも大きいことがよく知られていますが、その管理を行う多くの方々は建築の技術者ではありません。質の高い建築ストックを後世に引き継ぐためにも、これまで技術者が当たり前と考えていたコストやプライスの違いや価格変動要因、そして見積書の情報を広く世の中に伝えていくことが重要と考えます。

執筆者プロフィール

一般財団法人建設物価調査会 総合研究所経済研究部長 橋本 真一

橋本 真一
一般財団法人建設物価調査会 総合研究所経済研究部長
s-hashimoto@kensetu-bukka.or.jp
一般財団法人建設物価調査会 http://www.kensetu-bukka.or.jp/