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登記を極める フクダゼミナール
Lesson8(最終回) 登記の仕事はAIに置き換えられる?

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 ゼミナールの最後に、私たち司法書士の仕事について少し書かせていただききたいと思います。

 ここまで新・中間省略登記を始めとする登記の仕事について書いて来ました。近年は司法書士の仕事の範囲も広がってきましたが、依然として主要な部分を占めるのがこの登記の仕事です。

 そしてこの仕事は、そう遠くない未来に私たちの仕事ではなくなると私は考えています。

 つまりAIに置き換えられてしまうということです。司法書士の仕事の80%近くがAIに置き換えられるという研究報告もあります。

 先日の弊社の社内研修でも私は約50人の社員に、AIによって司法書士の仕事はなくなるぞ、さぁどうする?!という話をしました。

 現在の司法書士の仕事にはAIに置き換えられやすい仕事が多い事は間違いないのです。

 しかしAIに仕事を奪われるのを、手をこまねいて見ている必要もありません。AIに置き換えられやすい仕事から置き換えられにくい仕事にシフトしていけばよいのです。


〈AIに置き換えられにくい仕事〉
 では置き換えられにくい仕事とはどのような仕事でしょうか。

 例えば次のようなものです。

 知識や技術に頼り過ぎない仕事、人を楽しませる仕事、そして新しいものを創り出す仕事、です。
 
 今日はこのうち「新しいものを創り出す仕事」をするためにはどうすれば良いかについて考えてみます。

〈新しいもの=前例のないこと〉
 新しいものを創り出すといっても、全くの無から有を生み出す魔法のようなことではありません。前例のないことをやってみるということです。

 そしてこの前例のないことを考える能力は訓練によって身に付けられます。いわゆる「ひらめき思考」も地道な訓練によって育まれると私は考えています。

 今回の社内研修ではその訓練として今は懐かしい多湖輝さんの「頭の体操」(カッパブックス)の問題を数題社員に解いてもらいました。

 しかし「頭の体操」は前例のないことを考え出す下地を作るための、いわばウオーミングアップに過ぎません。これを行う目的は固定観念を打ち払う・思考習慣を変えるところにあるのです。

〈新しいものを創り出すために必要なこと〉
 そして前例のないことを考え出すために最も重要な要素は、実は私たち法律を扱う者の思考方法の中にあるのです。

 法律を扱う者の思考方法の中で中核をなすのは「論理的思考」です。この論理的思考ができることが、前例のないことを考え出すために最も重要な要素なのです。

 論理的思考の代表的な方法が「三段論法」です。

 三段論法とは、ある前提の下に結論を導き出すために上位概念を利用するという方法です。それぞれ小前提、結論、大前提と呼ばれています。

 有名な例としてこんなものがあります。

 人は皆必ず死ぬ(大前提)、ソクラテスは人間である(小前提)、だからソクラテスは必ず死ぬ(結論)。

〈新中間省略登記の発想の論理〉
 「新・中間省略登記」も前例のないものでしたが、これも論理的思考から生み出されたものです。中間省略登記が受け付けられないという結論を導き出すための三段論法は以下のようになります。

大前提:「登記は(受け付けられるためには)物権変動の過程を忠実に反映していなければならない」

小前提:「中間省略登記は物権変動の過程を忠実に反映していない」

結論:「中間省略登記は受け付けられない」

 この結論を変えて中間省略登記が受け付けられるようにするためには小前提を変えれば良いのです。つまり中間省略登記も物権変動の過程を忠実に反映するようにすれば良いのです。これが新・中間省略登記です。

〈自分の頭で検証をし続ける思考習慣を〉
 ただ、こういった発想ができるためには、不動産を買ったら所有権を取得するものだという固定観念を打破しなければなりません。

 頭の体操は固定観念にとらわれない柔らか頭を作っていく訓練の一環なのですが、訓練は頭の体操だけではありません。仕事の一つ一つに「疑い」を持つというのも効果的なトレーニングです。仕事上のルールや上司からの指示、命令について、「なぜそのような決まりがあるのか、合理的な指示なのか」と常に疑いを持ち、自分の頭で検証をし続ける思考習慣を身に付けるのです。

 こうした訓練を地道に続けることによって、前例のない、新しいものを考え出していけるようになるのです。こういう仕事はAIにすぐには置き換えられにくいのではないかと思います。

 私たち司法書士、否、司法書士に限らず全ての士(サムライ)業がAIやロボットに仕事を奪われずに生き残って行くための一つの道がこんなところにあるのではないでしょうか。

【フクダゼミナール終わり】

執筆者プロフィール

フクダリーガルコントラクツ&サービシス(千代田区)代表 福田龍介

福田龍介
フクダリーガルコントラクツ&サービシス(千代田区)代表
早稲田大学法学部卒業。1989年司法書士登録。大手司法書士事務所勤務を経て2002年、フクダリーガル コントラクツ &サービシス(FLC&S) を設立、開業、数々の不動産トラブルを未然に防ぐ。05年から「中間省略登記問題」に取り組み、06年末の規制改革・民間開放推進会議の答申にも関与した。新・中間省略登記の第一人者。