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どうなる? 未加入対策後の建設業界改革
第10回 人手不足時代と教育訓練

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 人手不足解消には、まずこの業界への流入数増を図る必要があり、これには業界の魅力を高め、発信することが重要です。ただし、流出数が多くてはその効果は半減です。

 建設業の平成26年3月学卒就職者の3年以内の離職率は、大卒で約3割(30.5%)、高卒では実に5割弱(47.7%)となっています。この数字は離職率ですので、必ずしも建設業界を離れたわけではありませんが、他業界に流出するのは当然離職時ですので、この数値は無視できません。

 建設業界は新たに流入する人、現在この業界にいる人のいずれにも長く働いてもらう工夫を考え実施し、そこから生まれた成功事例を共有していく必要があります。そのための工夫はいくつも考えられますが、例えば私は、技能者(いわゆる職人を指す)の「教育訓練の充実」が重要であると考えています。

 その理由を2点挙げると、まず建設業就業者の約7割を占める技能者への対応は、単純に数の上で重要であるのが1点。もう1点は、技能者の多くは中小零細規模の企業に所属しており、大企業のような体系立った教育訓練を受けるのが難しいことが多いためです。

 後者については、個々の中小零細企業では金銭的・時間的な要因から十分となりにくい面を、外部の訓練機関の充実等により補う、業界全体としての取り組みが欠かせません。

 ただ、これは建設業に限りませんが、仕事の進め方や内容は属社的になりがちですので、自社なりの訓練教育の整備も両立させないと十分とはいえません。

 私が今後進めるべき一つだと考えるのは、各企業における業務・作業のマニュアル化です。マニュアル化といっても大げさなものである必要はなく、例えば、使用する部品・工具の一覧でも、作業の流れを簡単にまとめたもの、また、写真や動画を用いて作業手順や注意点、また完成品質を示したものでも、立派なマニュアルとなります。

 技能者にとっては、この業界に多い「見て覚えろ」で生じやすい不安・不満の解消に繋がります。特に初期の業務上の挫折は、一気に離職に結びつく傾向にあるため、早期に少しでも戦力となれることは、業務上の達成感も早期に得ることができ、企業への定着に繋がります。

 企業側にとっても早期戦力化は当然望ましいことであり、またそれだけではなく、人手不足時代で重要課題となる業務効率化に関しても、マニュアル作成の過程は業務見直しのきっかけともなり、かつ、教える側の負担軽減という効果も見込めます。

執筆者プロフィール

特定社会保険労務士 社会保険労務士法人エール(横浜市) 加藤大輔

加藤大輔
特定社会保険労務士 社会保険労務士法人エール(横浜市)
社会保険労務士法人エール(横浜市)所属。特定社会保険労務士。建設企業向けのコンサルティングを幅広く手掛けてきた社会保険未加入問題の第一人者。関連する執筆やセミナー講師など多数。