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どうなる? 未加入対策後の建設業界改革
第12回・最終回 業界・企業の競争力と「従業員満足」

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 働き方改革の長時間労働是正の方向性において、「生産性の向上」は大きな課題です。建設業界ではこの流れを受けて、工事・工程管理、設計等の業務を簡素化、効率化するシステムの開発・活用を主軸とした「建設業のICT化」が国交省主導のもと、推進されています。

 ただ、このことだけを目指していれば、長時間労働是正は十分に達成されるのでしょうか。今回の働き方改革を受けた業界・企業の取り組みには、また別の観点からのものも増えているように思えます。

 それは「顧客サービス見直し」という観点です。例えば運送業ではヤマト運輸が、配達時間帯の指定枠変更や、当日の再配達受付の締切時刻の前倒しを決定したことが記憶に新しく、また飲食・小売業では24時間営業の見直しを模索する動きなどが出てきています。

 建設業においても実は同様の流れが起こっています。それは現在盛んに取りざたされている「適正な工期設定の推進」です。

 建設業において早期竣工は工事品質と並んでサービスの主軸と言えますが、国交省や業界団体は働き方改革を踏まえ、価格ダンピングにも繋がる行き過ぎた工期ダンピングに警鐘を鳴らし、発注者団体とも積極的に協議を進めることでこれを是正していく流れを作り出そうとしています。

 上記の観点は「企業満足・従業員満足・顧客満足」の三者バランスで取り組みを進めていこうとするものです。サービス提供の在り方を検討する際、これまではどうしても従業員満足が後に置かれがちとなる現状がありました。しかし今後は、深刻な人手不足を背景に、従業員満足に重きを置いた判断が増えてくるのではないかと思います。
 
 建設業でいうと、工期の設定や交渉において、また深夜や遠方といった一般的には労働者の負担が大きい工事の受注頻度などを、これまで以上に従業員への影響や従業員の志向を考慮して判断すべきということになります。

 業界の働き方改革の一環として日建連が、施工費の「特急料金」や「季節料金」などを検討すると発表しました。これは割増料金の設定によって現場作業員の処遇改善や週休2日制の普及を図り、また、偏る竣工時期を分散させ、繁忙を平準化する狙いからです。

 しかし例えば、この特急料金により従業員が受け取る残業代が増えたとしても、それだけで従業員満足が高まるとは限りません。

 現在、若年者を中心に業界を問わず、仕事におけるワークライフバランスを重視する人が増えていることは、多くの企業が実感していると思います。そのような人にとっては、残業して稼ぐことは大きな満足には繋がりません。つまり何によって従業員満足が高まるのかは、各企業がしっかりと把握し見極める必要があるのです。

 当然、従業員満足だけを重視した施策や経営となれば、競争力を失い、顧客から見放されかねません。よって重要なのは、今が「企業満足・従業員満足・顧客満足」のバランスが大きく変化する時代にあると、業界全体として認識することだと思います。

 そのバランス感覚を時代に合わせて変化させた対応を取ることができた業界、そして企業が、今後の人材獲得競争を勝ち抜き、そしてそこからの発展を勝ち取ることができるのではないでしょうか。

執筆者プロフィール

特定社会保険労務士 社会保険労務士法人エール(横浜市) 加藤大輔

加藤大輔
特定社会保険労務士 社会保険労務士法人エール(横浜市)
社会保険労務士法人エール(横浜市)所属。特定社会保険労務士。建設企業向けのコンサルティングを幅広く手掛けてきた社会保険未加入問題の第一人者。関連する執筆やセミナー講師など多数。