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事件から12年を経て
〜構造計算の現在と取り巻く環境〜
第1回 構造計算書偽装問題

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アークデータ研究所の吉沢と申します。今回から5回にわたって、構造技術者のIT環境と一貫構造計算プログラムについてお話させていただきます。建設業に携わる方はもちろん、構造設計を依頼する前にぜひ知っておいて欲しい内容なので、ご参考になればと思います。

構造計算をテーマとした場合、避けては通れないのが平成17年11月に発覚した「構造計算書偽装問題」です。ご存知の通り、構造計算ソフトウエアの計算結果を改ざんすることで、耐震基準を満たさないマンションが建てられていたということで大きな社会問題となりました。

事件発覚後、再発を防止するため、それまで106本あった国土交通大臣認定の一貫構造計算プログラムは全て取り消されました。計算結果がさほどのテクニックを使わずとも改ざんできたからです。

ここで、一貫構造計算プログラムを簡単に紹介しておきます。同プログラムは、荷重計算 → 応力解析 → 断面検定の計算工程をノンストップで一気通貫に行うプログラム(大臣認定はこの形式に限られる)のことを言います。我が国は地震大国のため、地震被害が報告される度に安全基準が見直され、確認すべき項目は多岐にわたって増えていきます。検討項目の多さに一貫構造計算プログラムなしで一般建物の設計はできないと言って過言ではないのが実情です。

実は、106本目のプログラムは当社のもので、大臣認定として生きた期間はわずか1カ月でした。話のタネとして、会う人ごとに言えたので悪いことではなかったかもしれません。それはともかくとして、問題発覚から約1年半後に、建築基準法の一部が改正されて平成19年6月20日から施行されました。

改正では大臣認定プログラムによる建築確認申請だった場合、適合性判定機関が申請物件データを実行して、同じ結果になる確認をすることになりました。偽装がプログラムの結果出力を改ざんする手口であったため、国が一貫構造計算プログラムを法律に格上し、改ざん出来ない機能を持たせる事を条件づけて厳格な制度運用をプログラムメーカ等に課したということです。

新たな大臣認定プログラムの確立が急務という背景のもと、官民連携による作成が進みましたが、顕在化するバグ(不具合)に対応し、修正を何度も繰り返すうち、複雑難解な運用ガイドラインになってしまったのです。当然、制度利用は進まず、国も新たなプログラム認定に慎重になり、認定プログラムが1本のみの運用という状況が長く続いたのです。

次回は大臣認定プログラムについて詳しくお話しさせていただきます。

執筆者プロフィール

株式会社アークデータ研究所 代表取締役 一級建築士 吉沢俊正

吉沢俊正
株式会社アークデータ研究所 代表取締役 一級建築士
aspace@archdata.co.jp
1978年日本大学理工学研究科建築学専攻(坪井研究室、修士課程)終了。轄\造計画研究所(技士)、轄\造ソフト(常務取締役・開発本部長)の勤務を経て現在に至る。潟Aークデータ研究所 URL:http://www.archdata.co.jp/