建通新聞社

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建設不動産会社の顧客目線・顧客重視の実現
〜問題の可視化と履歴管理によるマンション建物バリューアップのコツ〜
第3回 「顧客重視」って何だ?〜その1「情報開示」〜

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 前回までにお話した内容を少しおさらいしましょう。

 第1回では「企業理念」についてお話しました。建設不動産業界では供給者側のものづくりに対するプライドが強く理念に反映されていて、顧客目線という観点を置き去りにしていないか?という問題提起をしました。

 第2回では「業界の仕組み」についてお話しました。予算・工期・品質の3要素がけん制しあう関係になっておらず、法律で定められた瑕疵(かし)担保責任を盾に、供給者側がわずか10年間の責任しか負っていない仕組みそのものに問題はないか?という問題提起をしました。

 もうお気付きの通り、とにかく供給者側の力が強く消費者が合理的な選択をする材料が極めて少ないこと、建物よりも「この立地にこの金額で住みたい」動機が強いため建物品質に関しては関心が薄くなってしまうことから、事業者は顧客目線である必要を強く感じていないのです。広告がうまく、インフィルのデザインが良く、「保証」などと聞こえの良い文言があると、消費者は思考停止をしてしまうため、建物がどのように作られ、安全を担保されているか無関心になっているところに、事業者が甘えてしまっている状況にあるではないかと、感じています。

 もちろん事業者すべてに悪意があるとは思えません。ほとんどの従事者が真摯にものづくりをしようという意識はあると思います。しかしながら企画・開発・設計・施工・販売までを一体で進める日本独自の仕組みであるデベロッパー、パワービルダーといった組織において、全ては営業、販売が重視されます。このため建設現場には十分なリソースを割くことができず、下請けとなるゼネコンや工務店など、実際に手を動かす他者に「丸投げ」となってしまいます。消費者の目に触れるインフィル部分については、過剰なまでにチェックを行っているようですが、本来「企画・販売」を行う事業主が行うべき厳しいチェックや品質管理はおざなりになっているように思えます。

 以上を踏まえ、今回は情報開示の重要性についてお話します。

 私が考える最も重要な顧客重視の一つは、「安心・安全」な住まいを供給する事業者として、施工中の現場についてしっかりと情報開示を行うことであり、それが結果的に品質管理につながると考えます。多くのデベロッパー、パワービルダーやゼネコンが安心感や技術力をPRしている内容は、工場での実験であったり免振・制振など独自のパーツであったりするものがほとんどです。

 しかしながらどれだけ優れたものを採用していても、実際の施工現場で適正な施工が行われていなければ、そもそも住宅の基本的な性能を満たすことはできません。残念ながら保険法人の検査や確認検査が適正な施工を担保するものではないことは建築従事者であれば誰もが知っていて、一般消費者が意識していない重大な矛盾点です。

 私たちは既存建物の調査だけでなく新築の施工現場においてもデベロッパーなどの品質管理部門をサポートする検査を行っています。「工場検査を通過したとされる杭が現場に搬入されてきたが、基準を満たしていなかった」「配筋検査にいったところ至る所で定着長さ不足が発見された」「断熱シートの張り方がそもそも間違っていた」など、大手ビルダー、ゼネコンから街の工務店まで、このまま仕上げてしまったら誰にもわからないまま消費者の手に渡り、何らかの形で不具合現象が現れて初めて判明するような瑕疵は数知れず発生しています。現にニュースなどで事件化したような現場でも、しっかりとした検査を行いその様子を施主、消費者に開示していれば、施工ミスなども発生せず消費者との信頼関係は崩れずに済んだと思われます。
 これら施工ミスなどは、前にも述べた通りすべては悪意ではなく、一人一人の職人の経験不足や知識不足、ヒューマンエラーなど、真摯に現場に取り組んでいる中で発生することがとても多いように感じられるのです。

 だからこそ現場をしっかりとチェックし、修正指摘箇所と修正後の内容、これらをありのままに情報開示をすることが、品質向上に努める供給者としての責務であり、顧客重視につながるものではないでしょうか。

執筆者プロフィール

株式会社建物検査・調査・診断研究所(Biid) 代表取締役社長 安部博文

安部博文
株式会社建物検査・調査・診断研究所(Biid) 代表取締役社長
info@biid.co.jp
一級建築士、一級施工管理技士、住宅性能評価員。20年間の施工現場経験を礎として、検査業務に従事して10年以上。豊富な経験と「本質を突き詰める」鋭い視線で新築施工検査、既存建物調査に挑む。趣味は釣り。息子と猫を溺愛。1963年島根県出身。 http://www.biid.co.jp