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事件から12年を経て
〜構造計算の現在と取り巻く環境〜
第3回 一貫構造計算プログラムと構造技術者

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前回までに、構造計算書偽造問題と発覚後の一貫構造計算書プログラムについて紹介しました。私は「一貫構造計算プログラムはミスも誤診もあり得るもの言わぬ医者」であると考えています。その医者の書いた診断書(構造計算書)をジャッジするのが、皆さまが構造設計を依頼する構造技術者であると言えます。

実は、プログラムはバグがなければ、全て同じ結果を出力するかというとそうではありません。あるプログラムでOKだったものが他のプログラムでは異なる結果となったり、検定値(保有耐力/必要保有耐力等)が5%を超えてばらつく事もあります。JSCA(一般社団法人日本建築構造技術者協会)の季刊誌などで報告されていることですが、安全基準の解釈や計算するためのモデル化が異なることにより結果に違いが生じます。

プログラムの信頼性はどれだけのテストを行ったかによりますが、項目の組み合わせまで考えると天文学的数のテストをしなければならずプログラムメーカーは限られたケースでのテストで出荷する事になります。バグ修正によってすら新たなバグを埋め込む可能性を考えると、膨大な処理を行う一貫構造計算プログラムにバグが無くなる事はないと断言せざるをえません。

大臣認定プログラムについて言うと、複数プログラムによる運用になってから他社の認定プログラムに対しても、同じバグがない確認報告(方法を含む)が義務付けられたので、認定プログラムの信頼性は非認定プログラムに比べて高くなっていきます。それでもプログラムのバグが無くなる事はありません。冒頭、「一貫構造計算プログラムはミスも誤診もあり得るもの言わぬ医者」と考えている所以です。

構造技術者が医者(プログラム)の提出した診断書(構造計算書)をジャッジすることになりますが、構造計算書を鵜のみにしているかもしれません。非認定プログラムによる建築確認申請で適合性判定において、計算ステップ間でのデータ渡し検査に十分時間をかけなかったかもしれません。

構造設計には経験則が当てはまりますが、すべての構造技術者が同じ経験を持っている訳ではなく、認定プログラムの建築確認申請でお墨付きのプログラムだとして、計算条件(省略時の計算条件が決まっている)の妥当性を考えずに使っているのであれば問題です。

構造設計の信頼性と言う面から言えば、計算過程のデータの受け渡しが保証される認定プログラムの使用を条件に、経験豊富な構造技術者に構造設計を依頼するのが最善と言えるでしょう。

執筆者プロフィール

株式会社アークデータ研究所 代表取締役 一級建築士 吉沢俊正

吉沢俊正
株式会社アークデータ研究所 代表取締役 一級建築士
aspace@archdata.co.jp
1978年日本大学理工学研究科建築学専攻(坪井研究室、修士課程)終了。轄\造計画研究所(技士)、轄\造ソフト(常務取締役・開発本部長)の勤務を経て現在に至る。潟Aークデータ研究所 URL:http://www.archdata.co.jp/