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第8回 「言った」「言わない」の議論は犬も食わない!トレーサビリティは共通言語

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 「トレーサビリティが重要」というお話をしました。これをもう少し実務に落としていきましょう。

 私たちが一般消費者のアドバイザーとして仕事を請け負ったとき、いつも、トレーサビリティはとても大切なことであるとお話をします。不幸にも消費者と建設不動産会社との間で対立が深刻化したケースはいくつもあり、「言った」「言わない」の議論になることも少なくありません。最終的に法廷闘争になると、証拠の有無が争点になるのですが、この議論の行きつく先はほとんどが「どちらも精神的に削られ、不満を残す結果に終わる」という極めて不毛な状況なのです。

 工業製品のように仕様書通りに工場でつくられたものを「トリセツ」通りに使っているわけではないので、致し方ないところもあると言えますが、やはりこんな不幸なことはあってはならないことだと常日頃から感じています。

 私たちが消費者にお薦めするのは、以下の2点です。

「微妙な話になるときは、録音を取らせてもらいましょう」
「議事録などの書面には代表者もしくは代表者に準ずる方、もしくは管理建築士等の名前と捺印を必ずもらいましょう」

 いずれも難しいことではありません。
 議事録を取ること・署名捺印をもらうことはどんな企業でも行っていることで、事業者が自身の仕事にプライドを持ち何も後ろ向きなことが無ければ、これに難色を示す必要は一切ないはずなのです。

 しかしながらこれに異を唱える建設不動産会社が少なくありません。なぜなのでしょう。
 この連載で一貫してお話している通り、消費者と建設不動産会社との間で信頼関係が成立していないことにあるのではないかな、と私は考えます。「何か失言をみつけて、つついてやろう」という消費者と「言質をとられるような面倒くさいことになったら大変だ」という建設不動産会社。こんな二者が相対すれば、落ち着くものもなかなか落ち着きません。まさに犬も食わないけんか状態に陥ってしまうのです。

 私たちが録音や、議事録への署名捺印を推奨する目的は、そんな争いごとを大きくするためではありません。消費者と建設不動産会社とが感情的な対立関係にならず、是々非々で白黒をはっきりするための、たたき台としてお互いの共通言語を持つためなのです。そう、これがトレーサビリティの本質です。

 情報ギャップのある供給者と消費者との間に共通言語を作ること。工業製品であれば、基本的には同質、均質のものがつくられるため製品を通じて行う会話を、建設不動産業界では「記録」を通じて行うことが、非常に重要なポイントなのです。

 消費者も建設不動産会社も、自身を守るためにトレーサビリティを残しましょうという根本的な考え方は、「共通言語を持ちましょう」ということなのです。

執筆者プロフィール

株式会社建物検査・調査・診断研究所(Biid) 代表取締役社長 安部博文

安部博文
株式会社建物検査・調査・診断研究所(Biid) 代表取締役社長
info@biid.co.jp
一級建築士、一級施工管理技士、住宅性能評価員。20年間の施工現場経験を礎として、検査業務に従事して10年以上。豊富な経験と「本質を突き詰める」鋭い視線で新築施工検査、既存建物調査に挑む。趣味は釣り。息子と猫を溺愛。1963年島根県出身。 http://www.biid.co.jp