建通新聞社

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建設不動産会社の顧客目線・顧客重視の実現
〜問題の可視化と履歴管理によるマンション建物バリューアップのコツ〜
第10回 事件は現場で起きている!実例を解説<後編>

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(前編のあらすじ=あるマンションの大規模修繕工事の準備で建物診断等を実施してみると、数カ所での順法性違反、数多くのクラックと広範囲でのタイルの浮きを発見した。デベロッパーは倒産しており、マンション管理組合理事会と施工会社との間で、1年にわたる交渉が続いていた)

 瑕疵(かし)担保期間を越えた建物、事業主であるデベロッパーが存在しない現状において、マンション管理組合理事会がタイルの剥落(はくらく)の危険を回避するために補修を依頼できる相手は、施工会社(ゼネコン)です。瑕疵担保期間を過ぎたとはいえ、一部では80%以上の浮きが見られたこの建物では、ゼネコンが不具合修繕の責務から免れるわけもありません。

 理事会側は、大規模修繕工事の足場の貸し出しを申し出、ゼネコンに修繕工事を行うよう提案していました。足場のコストを圧縮し負担が少なくなるようにとの配慮です。しかしゼネコン側は何度も主張を変えてきます。ゼネコン役員の方まで出張ってきて強調していた内容が、一週間でほごにされるなど、考えにくい状況が今も続いています。

 すべてのやり取りは議事録に残しているのですが、どのように考えておられるのか・・・。解決の糸口が見えなくなりました。

 前回の原稿を書いた時点では、口頭ベースではありますが居住者に安心していただける補修をすることで合意がなされ、今回の最終回で、「トラブル解決はかくあるべし」とお話しする予定でした。しかし、これが簡単にほごにされ、話し合いは振り出しに。

 この案件は、今後大きな問題になるかもしれないため、あまりお話しすることができなくなりました。ここでいったん筆を置くことをお許しください。

 非常に中途半端な幕切れとなりましたが、最終回に当たり、私なりに「マンション建物バリューアップのコツ」をまとめました。

●「とにかく書面でいろんなやり取りを残してくれる事業者を選ぶこと」
 一般消費者が信頼できる建設不動産会社を選択する際の第一のポイントです。トレーサビリティの考え方です。建設不動産会社側は、これを裏返せばよい。ネガティブ情報も含め、とにかくやり取り記録をきっちり残すことが重要です

●「説明責任を果たすこと」
 第二のポイントは一点目と重なりますが、説明内容はすべて記録を取り、情報開示すること。事業者側は、都合の悪い内容も含めて全て一般消費者に説明をすること。信頼度合いが格段に上がります。

●「中立的な立場のエージェントをつかいましょう」
 少しずつ広まりつつある、インスペクターの存在。しかしながらインスペクション業界が新しい業界であるが故、有象無象の業者が混在しているのも事実です。ぜひ心がけていただきたいことは、「対立軸を作ってあおるようなエージェントを信用してはならない」。これが第三のポイントです。

 以上でしょうか。
 すべての人々が不動産、建物のトラブルで苦しめられないように。
 信頼関係をもったイイ関係を築いていけるように。
 そんな時代がくることを祈ってやみません。

 乱筆、長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。(おわり)

執筆者プロフィール

株式会社建物検査・調査・診断研究所(Biid) 代表取締役社長 安部博文

安部博文
株式会社建物検査・調査・診断研究所(Biid) 代表取締役社長
info@biid.co.jp
一級建築士、一級施工管理技士、住宅性能評価員。20年間の施工現場経験を礎として、検査業務に従事して10年以上。豊富な経験と「本質を突き詰める」鋭い視線で新築施工検査、既存建物調査に挑む。趣味は釣り。息子と猫を溺愛。1963年島根県出身。 http://www.biid.co.jp