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マンション開発 固定観念を拭い去ろう

2017/7/29 

「どこが天井なのか」の予測が困難なほど、首都圏の分譲マンション価格が上昇を続けている。この半年間でも、平均価格6000万円の大台を超える期間があったほどだ。郊外部では苦戦する物件も出始めているが、デベロッパー各社のトップは価格高騰に対して意外なほどに反応を示していない。堅調な国内経済を背景に「急激に落ち込む市況ではない」と、冷静とも楽観ともつかないコメントを発する経営者層が多数を占めるほどだ。
 需要の高まりだけが価格高騰の要因ではない。建設技能者などの不足に起因する労務費の高止まりが解消されない上、地価が販売価格に投影されている状況を見る限り、消費者の購入意欲を刺激するような手頃感の提供にはつながりそうにない。
 だからと言って、デベロッパー各社は「模様眺め」を決め込んでいる訳でもなさそうだ。土地の仕入れの厳選化はもちろんのこと、物件の仕様や販売手法などを総合的に見直したり、ゼネコンと共同で新工法の開発に取り組むなどコストの削減努力を重ねている。 
 しかしながら、このようなコスト圧縮ありきの、「対症療法的」な対策には限界がある。価格の適正化が最終目標なのではないはずだ。将来にわたる住宅需要を創出することこそが重要だ。
 わが国は人口減少社会に移行し、個々のライフスタイルは多様化している。かつての高度経済成長期のような、同じ仕様の住宅を大量に供給する手法は過去のものになった。画一的な物件を供給し続けるのではなく、建設地のポテンシャルを見極め、開発の取り組み方を企画の段階からゼロベースで考え直す必要があるだろう。
 その一例として、サービス付き高齢者住宅との一体開発や、低層階に医療機関などをテナントにした分譲マンションなどが挙げられる。用途の複合化だけでなく、同一の建物内にさまざまな間取りの住戸を用意するという手法も有効だ。そして、開発に当たっては、個々の物件だけに目を向けるのではなく、街づくりの観点から、時間をかけてでも「地域を育てる」という意識も持つべきだ。
 これからは、消費者の多くを占めるであろう高齢者層の需要を拡大しつつ、一人暮らしやDINKSをはじめとする、新たな1次取得者層の誕生によって顕在化しつつあるニーズを取り込む商品づくりができるかどうかが問われることになる。
 新しいニーズに対応するためには、「住宅とはこういうものだ」という固定観念を捨て、供給側のビジネスモデルを劇的に変えていくという、決意が要るのではないか。
 マンションを開発する上で「立地」が重要だということに異論はない。しかし、「立地が良いから高価格なのだ」という理由付けだけでは、もはや消費者の購入マインドは動かせないだろう。
 デベロッパー各社は、街づくりで培った経験とノウハウを生かし、マンションの立地や規模の大小だけを問うのではなく、まずは「誰もが、それぞれの自由な生活を実現するための空間」をイメージして物件を開発するという、初心に立ち返ることから始めるべきだろう。