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2018年の建設業―安心して人生を託せる企業へ

2018/1/5 

時間外労働の罰則付き上限規制の建設業への適用を盛り込んだ改正労働基準法が、今月から始まる通常国会に提出される。改正法が成立すれば2019年度に施行し、1カ月の時間外労働を100時間未満などとする規制が、5年の猶予期間を経て24年度から建設業にも適用される見通しだ。
 これに対して一部の建設産業団体は、法の適用を待たず自主規制を段階的に前倒しで実施する方針を打ち出している。例えば、日本道路建設業協会(道建協、増永修平会長)は、具体的な数値目標を掲げて18年4月から自主規制を開始する。1カ月100時間未満の規制については、法の適用時期より5年前倒しして19年4月から実施する。年間と複数月平均の上限規制についても2年前倒しし、22年4月に達成する。
 労働時間の短縮は、「働き方改革」に向けた就業環境改善に関わる試金石の一つだ。そして建設業では、法令を順守するとともに、就業環境の改善を通じ、懸案である「担い手の確保・育成」の実現につなげなければならない。自主的に長時間労働の是正を開始するなど今年2018年を、将来を担う人材の獲得・育成に向けた改革の本格的なスタートの年としたい。
 そこで重要なのは、個々の企業が就業環境の改善に向けて、実効性のある具体策どう打ち出し、実際の行動に移していけるかだ。「働き方改革」や「担い手の確保・育成」の掛け声だけにとどまってはならない。
 全国建設業協会(全建、近藤晴貞会長)が働き方改革の推進について会員企業に17年8月1日時点の取り組み状況をアンケート調査したところ、勤務時間の管理方法では「本人の申告」が60・9%を占めた。タイムカードなど客観的な手段を導入しているケースは32・3%にとどまった。
 また、長時間労働抑止の取り組み(複数回答)では、「経営トップによる声掛け」(45・6%)や「定時退社の呼び掛け」(32・3%)など具体性に欠ける対応が目立った。今後なすべきことは多いと言わざるを得ない。
 東京都内のある建設業の経営者は、東京五輪・パラリンピックに向けた施設整備などによる工事量の増加をにらみ、社員の労働時間の長時間化を懸念。2年前、それまで実施していたみなし残業手当制を廃止し、残業手当の全額支給に切り替えた。
 「法令順守を巡るリスクを経営者として回避するとともに、労働時間に対する社員の意識改革を促すこと」が目的だった。実際に社員の労働時間は短縮したという。
 一品受注の現地生産である建設業の収益は、現場で働く社員の能力に負う部分が大きい。有能な社員を確保、さらに育成し、心身ともに健康な状態で能力を発揮させることができるかどうかは極めて重要だ。前出の経営者の問題意識もそこにある。「社員が安心して働き、活躍できる会社にしたい」と言う。
 重要なのは、真に人を大切にする企業になれるかどうかだ。取り組むべきは長時間労働の是正にとどまらない。働くことは人の人生に関わることだけに、人を雇用する企業においても、育児・介護支援、女性活躍推進、闘病支援、高齢者雇用延長、企業年金など対応すべき課題は多い。
 人口減少が進む中、日本では企業間の人材獲得競争はますます激化する。人が安心して人生を託せ、人から選ばれる企業でなければ経営を維持できない時代がやってきている。経営者は本気で改革に踏み出さなくてはならない。