建滴 被災地復興 求められる不動産取引の健全化
2011/12/19 東京版 掲載記事より
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多くの尊い人命や財産を奪った東日本大震災から9カ月が経過した。宮城、岩手の両県では仮設住宅の整備などが進み、復興への槌音(つちおと)が徐々に大きくなってきている。一方、福島県では、原発事故に伴う放射能汚染の問題をめぐって、今後本格化していく除染事業などをなど含め、対策が長期化の様相を呈している。
東日本大震災からの復興に向けて、地元自治体では復興構想の検討が進み、民間レベルでもさまざまなプランが出ている。しかし、具体化に時間を要し、実現の可能性に課題が多い計画もある。
復興のシナリオとして、被災地の不動産市場を早期に回復させることも、復興を地域の再生につなげる現実的かつ大きな問題だ。
震災後、すでに不動産市場が活発化しているエリアもある。復旧・復興事業にかかわる企業の進出で、仙台市内のオフィスビルの稼働率は震災前と比較して約20%も上昇した。
加えて、津波によって社屋が壊滅的なダメージを受けた気仙沼市や石巻市など宮城県沿岸部に所在する企業の中には、事業を継続する目的で、仙台圏などの内陸部に事務所を仮移転する動きが目立った。ただ、こういった一時的な活況が、今後の不動産取引の指標となるかどうかは疑わしい。
また、悩ましい問題も浮上している。
自治体の復興計画には沿岸部にある公共施設や住宅などの「高台移転」が盛り込まれているため、近い将来の地価上昇を期待して、投機的に高台の土地を購入する不動産業者が後を絶たない。
すでに岩手県の大船渡市、宮古市、釜石市などの高台地では2割程度も地価が跳ね上がっているという。
国土交通省は、被災地の土地取引情報を自治体に提供する形で、買い占めに対する監視を強化しているが、事前に土地売買取引を制限することは非常に難しい。
復興計画が具体化する過程で、高台などの地価高騰がさらに加速したのでは、被災地再建の大きな障壁となるだろう。
違法ではないが、一部の不動産業者による「買いあさり」ともいえるモラルを逸脱した行為が繰り返されれば、不動産業界全体にもマイナスのイメージを与えかねない。
被災地の地域経済に一刻も早く活気を取り戻すため、官民が連携して地価の上昇を抑えつつ、土地などが流通しやすい健全な不動産市場を回復できる仕組みの構築が求められている。
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