建滴 建築アーカイブ 国レベルでの運営に期待
2012/1/16 東京版 掲載記事より
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国レベルでの建築アーカイブの組織化が、ようやく実現しそうだ。東京・港区の森美術館で先日まで開催された「メタボリズムの未来都市展」の公式プログラム『危機に瀕する建築ドキュメント―建築アーカイブ設立の可能性を探る』での報告によると、文化庁が国内初となるナショナルアーカイブの設置を検討している。近代以降の建築図面などを収集する部門を持ち、早ければ来年度後半に稼働するという。
アーカイブとは、古文書や公文書を保管する場所を意味する。つまり建築アーカイブは、建築に関する資料(=ドキュメント)を収集・保存し、閲覧や展示を通じて情報を公開する博物館%Iな存在だ。
建築資料は、計画初期のスケッチ、プランニング、模型をはじめ、基本・実施設計図から施工図など多岐にわたり、それらを読み解くことで設計者の意図や思考をたどり、当時の設計思想を知るための重要な手掛かりとなる。
海外では、かなり以前から建築資料の重要性が指摘されており、既にナショナルアーカイブを設置している国も少なくない。例えば、フランスにある建築・文化財博物館のコレクションは、歴史的建造物の彫刻部分の実物大複製からル・コルビュジエに代表される近代建築までを網羅する。設立の起源は19世紀にさかのぼる。
また、国際的な組織として1979年に設立されたicam(国際建築博物館連盟)があり、各国のアーカイブ団体を横断的に取りまとめている。その憲章には、建築資料の保存・登録に加え、建築を通じた文化の連続性と重要性が明示されている。
これに対し、ナショナルアーカイブが存在しない日本では、いくつかの大学や企業などが個別にアーカイブを持ち独自に活動しているものの、アーカイブ間の連携不足や、著作権の扱い方など課題も多い。海外のアーカイブに「タンゲ」「クロカワ」といった日本を代表する建築家の作品が見受けられるだけに、貴重な作品の海外流出という問題にも直面している。
こうした状況を打開するには、共通のルールやフォーマットを決めて各アーカイブを結び付けると同時に、課題の解決や新たなコレクションを推進する国レベルでの組織体制がどうしても必要だ。
さらに、その先にある重要な役割として、研究・教育面での情報発信がある。フランスでは博物館が教育機関と協力し、児童を対象とするワークショップを開くなど、教育への取り込みを積極的に進めているという。建築アーカイブの充実は、建築に対する理解を深めるとともに、その価値を広く知らしめることで次代を担う人材の育成にも直結するからだ。
日本においても、業績を網羅し、学術研究の礎となる包括的な建築アーカイブの設立に期待したい。
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