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囲い込みで業界を守る

囲い込みで業界を守る

蟹澤宏剛芝浦工業大学教授講演より(3)


 


月刊建設データ2011年11月号掲載

 



蟹澤宏剛



英国の技能者教育の在り方

業界団体の役割として期待することというお話をします。まず、イギリスの事例です。

イギリスは面白い国で、国が何か施策を出す前にレポートというものが出てくるのです。例えば、「リーチレポート」というものがありまして、2020年までにイギリスの技能レベルを世界最高水準にするぞ、という目標を打ち立てています。全産業共通の技能レベルの指標を、現在の目標より一つ上げようとか、近代的な徒弟制度をもっと増やしていこうという具体的な目標を掲げているのです。

近代的な徒弟制度とは何かというと、若者が入職したら最初の3年間は、入る会社によって処遇が違うということを産業界全体で無くして、みんな同じにする。要は3年間は業界全体で育てようという仕組みです。その間の給料は、ある団体が補助する仕組みができているのです。

僕が日本の皆さんに提言しているのは、同様に入職後、最初の何年間かは、そこで差が出ないように一緒に教える。それに対して助成金が出る仕組みをつくったらどうかということです。

そういうことをしているのが、イギリスのCITB(コンストラクション・インダストリー・トレーニング・ボード=建設業労働者訓練委員会)という組織です。この組織は、富士宮市の富士教育訓練センターをさらに大きくしたレベルの訓練校を持っています。この組織がすごいのは、国の代わりに企業に訓練助成金を出すための基金を持っていることです。そして、消費税のように建設業全体からお金を集める権限を持っているのです。

建設業者が受注すると受注金額の数%を集め、それをプールした基金なのです。こうした制度は、ドイツにもアメリカにもあります。先進国でこうした制度のない日本は、むしろ珍しい。要するに、建設業で人を育てることが、非常に難しいため、お金はみんなで集めて、実際に人を育ててくれる会社にお金を出そうというやり方なのです。その元締がCITBという組織です。





「囲い込み」で業界を守る

またすごいのは、業界を守る囲い込みの仕組みを外国ではちゃんとつくっていることです。どういうことかというと、外国の場合は移民が入ってくるとか、不法滞在の外国人が多いということで、建設業の現場で働いていい人を囲い込み、選別したい。そのために、ドイツではマイスター制度があります。イギリスでは、それを近代化してカードを作っている。職人だけでなく、現場監督も何もかも全員がカードを持ちます。極端なことを言うと、ピザをデリバリーする人もカードを持っていないと現場に入れてもらえないのです。現場には関係の無い人間を一切入れないのです。

カードを発行するには、まず新規入場者教育のようなことを受けさせます。ピザの配達人でも、「それくらいの教育を受けていない人は現場に入ってはいけない」と徹底しているのです。

イギリスの建設産業というのは、日本と比べると全然小さい。従業者数で言うと、日本が500万人、イギリスは200万人くらいしかいない。カードは160万枚くらい発行されていますので、建設業で働いている人の多くが持っていることになります。

この間、被災地に行ったところ、建設業に素人の人も働いているというので、ヘルメットに経験者か未経験者かが分かるシールを貼ってみようとか、危ない現場もあるので、どういう現場で何日間働いたかが分かるようにしようとか、大手ゼネコンと一緒に実験を始めています。これが業界全体に広がればいいなと思っているところです。

業界団体には、ぜひ、こういう囲い込みをやってほしい。

イギリスの場合、安全教育は2年間有効で、更新教育をすることで団体が収入を得続けることができる。非常にうまい仕組みを構築しています。

それからイギリスが上手いのは、この仕組みをいろいろな国に輸出していることです。安全教育や資格制度を輸出し、その国を囲い込んで競争力を持とうというのです。旧植民地の国を中心にどんどん展開しているようです。

カードは、レベルが上がると色が変わるようになっています。それも一つのステータスで、「カードを持っていて良かったな」ということになるわけです。実際に現場で「この制度はどうか」と聞くと、「なかなかいいよ」と答えてくれます。

とにかく大事なのは、この基金があるということです。それから教育プログラムと技能評価の仕組みがちきんとあること。さらに何よりも考えなくてはならないのは、不法就労やアウトサイダーから業界を守る仕組みがちゃんとあるということです。

きょう表彰された優秀な人の位置付けが「ここ」、入ってきたばかりの人のレベルが「ここ」、というように「ここ」が決まっていないと評価ができない。

日本の場合には、誰が現場に入ってきても受け入れてしまうわけですし、大工を一律に大工としてしか扱わないことです。労務費調査でも技能のレベルによる区別がない。ただし、これは国交省が今回から改善してくれまして、職長の場合は2000円高いとか、基幹技能者場合はもっと高いとかいうデータも出ている。そういうこともちゃんとやらなくてはいけない。

イギリスには労働協約、賃金協定みたいなものはありません。それは市場原理に任されるけれども、資格の基準や業界の囲い込みがきちんとあるので、不当なダンピングとかは起こらないからなのです。




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