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法定福利費の適切な確保が課題

法定福利費の適切な確保が課題


〜社会保険加入率100%まであと1年〜


 



 「企業単位で許可業者の加入率100%、労働者単位では製造業相当の加入状況を目指す」。国土交通省が取り組む建設業の社会保険未加入対策が目途とする2017年度があと1年に迫る。

担い手不足や適正に負担する会社ほど競争上不利という不公正な競争環境を改善するため12年度にスタートした同対策。建設業許可更新時の指導や、国交省が15年8月から全直轄工事で未加入の元請け、一次下請けの排除を始めるなどして加入率は年々上昇しているが、社会保険の原資である法定福利費が適正に確保されているとは言い難い現実がある。

国交省や建設業団体が参加する社会保険未加入対策推進協議会では、法定福利費確保の手段として、各専門工事業団体が作成した標準見積書の活用などにより、法定福利費を内訳明示した見積書の下請け企業から元請け企業への提出が申し合わされている。

しかし、国交省が1年前に行った実態調査によると、法定福利費を内訳明示した見積書を提出していない企業が約5割を占めた。反面、提出した結果では法定福利費を含む見積金額全額が支払われる契約をした割合は約35%に及び、内訳明示して提出されれば尊重する傾向があることが分かった。  そこで、専門工事業団体にアンケートを実施し、県内における標準見積書の活用状況など法定福利費に関する現状と課題を探った。



 



専門工事業6団体にアンケート




 静岡県型枠工事業協議会

1―@28社A30%

2―@有@c標準見積書形式でなく従来の見積もりに別項目(社会保険項目)を加える形をとる会社があるAa20%b随時要請

3―@20%A別枠10% 単価包含90%Ac▽法定福利費として明確に表す元請けは少ない▽単価に含ませることにより将来うやむやになる恐れがある

4―@▽足並みがそろわない▽二次以降の業者の事を考えない▽「何のために必要か」の理解が浅いA▽全国大手は各社の対応がバラバラ▽地元企業は認識不足(下請けの問題と思っている)

5―▽国、県、市の強力な指導が望ましい▽一次下請け企業レベルで止まってしまう可能性がある▽標準見積書で別計上しても、請負契約書では単価に含むとされてしまうため、請負契約書でも別枠を設けるよう国の指導がほしい





静岡県鉄筋業協同組合

1―@39社A50%

2―@有Aa60%b標準見積書利用説明会の実施と日常的な利用の呼び掛け

3―@5%A別枠2% 単価包含98%Ac掛け声はあるが、まだまだ実施には至っていない

4―@▽仕事がもらえなくなるとの恐怖が強い▽二次以下の下請け業者の保険加入率が低いA▽受注時の予算に法定福利費が含まれていない▽法定福利費問題に対しての現場担当者の認識が低い

5―▽組合活動を通じて全業者が同じ条件の見積もりを元請けに提出できるように今後も活動していく





静岡県重機建設業工業組合

1―@23社A100%

2―@有Aaほとんど0%b役員会で話す程度

3―@不明A単価包含

4―@創立当初から社会保険、雇用保険の加入は当然という空気はあったA機械代は値切りやすいと考えられている節がある





静岡県左官業組合

1―@249社A健康保険・年金保険はほぼ100%、雇用保険・一人親方特別加入は55%

2―@c2015年11月に標準積算資料を作成Aa5〜10%b説明会を開き周知徹底を計っている

3―@不明A単価包含Ac今は別枠にて提出するも工事費と合算されている。今後別枠にて出してもらえるように進めていく

4―@野丁場から町場まで規模がまちまちで対応に苦慮しているA元請けの理解度が低い(温度差がある)

5―▽業界を維持するためにも元請け側のご理解と実行を切にお願いし、スピ―ド感を持って実践してほしい▽組合員には説明会等で周知徹底を計る





静岡県解体工事業協会

(40社中10社の回答による)

1―@40社A90%(一部加入10%)

2―@有(全国解体工事業団体連合会が定めた見本)@c見積書は自社独自のものを利用Aa0%(自社独自の見積書を使用30%)b事務局短信で全会員に直接周知、また理事会にて厚労省・国交省のパンフレットを配布し全会員に周知

3―@約60%A別枠40% 単価包含40%Ac▽法定福利費を計上すると高くなり、相見積もりの場合は仕事が取れないため計上しない▽大手ゼネコンのみ対応し、地元建設業者や工務店等は対応していない

4―@▽ほとんど価格競争であるため適正価格が崩れ法定福利費を計上できない環境にある▽役所・スーパーゼネコン・設計事務所には法定福利費の項目があるが、その他は諸経費として計上かトータルの受注額ありきが現状▽法定福利費の算定方法が不明確である

4―A(自社が下請けの場合)▽工事費が安ければ何でもいいという傾向がある▽着工前に工事代金の取り決めをしない▽追加工事もタダでやらせる

(自分が下請けながら元請けの立場でもある場合)▽十分な金額で仕事を取っていないので機械のリ―スでも足場でも安い業者を選ばざるを得ない

5―▽受注価格は以前と変わらないのに社員全員の法定福利費を毎月払っていくのはとうてい無理▽公共工事でも一方的な大幅減額工事がある。減額工事では想定した監督予算が確保できない▽毎年上がる社会保険料により社員の定期昇給があっても手取り賃金が下がる場合が多い





静岡県クレ―ン建設工業組合

1―@72社A90%

2―@有@c個別に別枠で法定福利費の計上をする場合もある

2―Aa20%b資料配布

3―@60%A別枠40% 単価包含60%Ac現場ごとに対応が違う

4―@民間工事の場合は請求しても無理A大手は対応してもらえるがロ―カルゼネコンは無理



 



法定福利費問題アンケート項目




1団体の状況について

@会員数

A会員の社会保険加入率



2標準見積書の利用について

@会員が共通して使用する標準見積書があるか

a有→Aへ進む

b無

cその他状況

A 標準見積書の利用状況について

a会員の標準見積書の利用割合は何割程度か

b標準見積書の利用を会員に(どのような形で)要請しているか



3法定福利費の支払い状況について

@法定福利費を支払う元請けは何割程度か

A法定福利費を支払う場合、別枠計上か単価包含か。また、それぞれ何割程度か

a別枠

b単価包含

cその他状況



4法定福利費問題の現状について

@会員(下請け)側の課題は何か

A元請け側の問題点は何か



5その他、問題解決や団体活動における意見があれば記入してください



 



内訳明示した見積り書は尊重する傾向




 国土交通省は、1年前に社会保険等加入および法定福利費を内訳明示した見積書に係る実態調査を社会保険未加入対策推進協議会に参加する建設業団体に所属する会員企業に行っている。調査によると、注文者への提出状況は、31.7%がほとんどまたはおおむね提出している一方で、48.3%がほとんどまたはまったく提出していない。注文者へ提出しなかった理由を見ると「注文者から提出するよう指示がなかった」が圧倒的に多く56.1%を占める。反面、注文者へ提出した結果では、「(内訳明示した)法定福利費を含む見積金額全額が支払われる契約となった」が最も多く34・8%となっている。

◇調査対象―社会保険未加入対策推進協議会に参加する建設業団体に所属する会員企業

◇調査期間―2014年12月16日〜15年1月8日

◇回答状況―3349件



 



アンケート結果



 



元請けの理解不足を訴える




 各団体会員の社会保険加入率は、100%から30%と業種によってばらつきがある。

その原資となる法定福利費の確保に有効な標準見積書をほとんどの団体が作成しているが、会員に働き掛けをしているにもかかわらず、利用割合は一部を除き30%を下回っている。

法定福利費の元請けの支払い状況も業種によって違いがあり、支払われる場合も別枠より単価に包含される割合が多い。

法定福利費問題の現状について、下請け側の課題としては、会社規模がまちまちな中、業界が足並みをそろえることの難しさや二次下請け以下の加入率などを挙げ、元請け側には理解不足を訴えている。



 



松本國明




 専門工事の技術者が高齢化、若者の入職率が低迷し続けている。根本には職場環境整備の遅れがあり、その一つとして低水準な賃金と社会保険未加入が挙げられる。

法定福利費の問題に関しては、国交省の指導により整備が進められているが、発注元、元請け、下請けの間での認識の温度差が大きい。業種によって違いはあるものの、専門工事業者だけががんばっても改善は見込めない。発注元や元請けが先頭を切ってこの問題に取り組んでいかなければ、未来の建設業は全く闇の中である。もちろん下請けの業者も一次、二次、それ以降にかかわらず、また、各専門工事業団体も一体となり、真摯に取り組まなければならない。

社員が安心して働ける会社とするために、法定福利費の確保そして社会保険の加入など今やるべきことを速やかに行動に移すべきである。



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