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「やらまいか精神の復活」で浜松に活気を

「やらまいか精神の復活」で浜松に活気を


〜【新春鼎談】〜



 



3者立ち姿(鈴木康友浜松市長、中村嘉宏浜松建協会長、長谷川智彦天竜建協会長)




 自動車産業をはじめとする企業努力が礎となり、発展・成長を遂げてきた浜松市。新たな産業の創出に期待を込め、2016年度の戦略計画に「やらまいか精神の復活」を掲げる。今後のまちづくりについても、この精神に基づいた浜松版コンパクトシティーの実現を見据え、機能集約を図っていく方針だ。

一方で昨年は、課題となっている橋梁やトンネルなどインフラ資産の長寿命化を進める中、1月に土砂崩れによる原田橋(天竜区佐久間町)の崩落事故が発生。さらに9月には台風18号が引き起こした豪雨による冠水被害もあり、自然災害が猛威を振るった1年となった。これらを教訓とし、市は山間地域で崩壊の恐れのある法面を適正に管理するためのガイドライン策定を進めるほか、県と協力して総合治水対策協議会を発足するなど市民の安全・安心に向けた取り組みを始めている。

また、技術者を中心とする人手不足が深刻化する建設産業界にとって、横浜のマンションに端を発した杭打ちのデータ改ざん問題は、受発注者間の信頼関係に亀裂が生じただけでなく社会的信用に関わる大きな問題となった。

今回、新春を飾る紙面鼎談(ていだん)では、浜松市の鈴木康友市長、浜松建設業協会の中村嘉宏会長、天竜建設業協会の長谷川智彦会長にそれぞれの立場で意見を交わしてもらった。(司会 建通新聞社浜松支局長・横井友則)



 



自然災害への対応




鈴木康友



司会 昨年を振り返ると、1月に土砂崩れで原田橋が崩落する痛ましい事故が発生しました。この事故を教訓とした山間地域の災害対策についてどうお考えでしょうか。



鈴木 原田橋は崩落後、早期に仮設道路が開通し、7月末には新たに架設するルートも決定しました。崩落現場の残骸撤去も済ませているので、2016年度から新たな橋の建設に着手します。中山間地域の災害対策としては、崩壊の恐れがある法面を適切に管理するためのガイドラインを15年度中に策定します。これに基づき、天竜区を中心とした法面の調査・点検、修繕を計画的に進めていきます。予算は限られているので、優先順位付けをして取り組んでいきます。



長谷川 天竜区は災害が非常に多い地域で、一つの災害が住民に与える不安は計り知れないものがあります。そうしたガイドラインの策定は願ってもないことです。われわれも災害防止に向けたパトロールを進め、山間地域の細かな変化に目を向けていきます。原田橋のほかにも老朽化した道路・橋梁が多数あるので、こうしたインフラの危険信号を察知していかなければいけません。当協会では企画青年委員会を立ち上げ、15b以下の橋梁を対象とした保守・点検の講習会を市の協力のもと行いました。そのほか橋梁耐震化工法などの視察や勉強会を進めていきます。ただ、人材が減っている中、保守・点検に必要な資格を取得して作業に当たる人員をどこまで割けるかといった課題はあります。



司会 昨年9月には台風18号の影響で南区が冠水被害に見舞われました。今後の豪雨対策と建設業界の取り組みなどを教えてください。



鈴木 冠水被害は高塚川の氾濫が一因です。県が進める馬込川河川整備計画と整合を図り、当地区の浸水被害対策を検討するために県と市の間で設立した「総合的治水対策推進協議会」で調整しながら、河川や排水路の改修、調整池などの流出抑制対策を進めていきます。ある程度の浸水状況は把握できたので、河川改修などのハード整備のほか、今後は水位計を3カ所、監視カメラを5カ所に増設し、水位などの河川状況を市のホームページで公開していきます。こうしたソフト整備にも力を入れ、より効果的な取り組みを進めます。



中村 昨年9月の冠水被害では災害協定に基づく市からの出動要請を受け、南区の協会員2社が精力的に復旧作業に当たってくれました。高塚川周辺はJRの線路下をくぐる地下道が多くあり、そうした箇所の排水対策に迅速に取り組む必要があります。



長谷川 大雨時に冠水を起こす主要幹線道路などがあります。河川と道路が一体化した地域のため、住民の安全を第一に考え常にアンテナを高くし、救援、復旧作業など災害時における建設業の役割を速やかに果たしたいと思います。


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建設産業を取り巻く課題




中村嘉宏



司会 昨年10月、横浜のマンションで杭基礎が支持層に届いておらず、技術的なデータを改ざんしていた問題が発生しました。浜松市内で横浜のマンションと同じ担当者による該当物件はありますか。また、このような問題をどう受け止めていますか。



鈴木 市が発注した公共物件ではなかったのですが、民間施設で該当する施設が1件ありました。建設業界に関連した問題ですが、やはり元請けと下請けの連携強化が重要なのだとあらためて感じます。元請けが下請けの管理も一括して担うなど、複雑な下請け多重構造を明確にすることが解決への糸口だと考えます。公共事業では、総合評価で技術点や実績を加味した発注を進めていますが、そうした点でも受発注者間の信頼関係が何より大切となってきます。こうした問題が起こるとチェック体制を強化する必要がありますが、発注者が下請けにまで注意を払うのは難しく、元請けの管理体制を信じるしかありません。



中村 本来、元請けが品質を重視するのは当然のことです。日本の建設産業は、先人の大きな努力の積み重ねによるもので、それが世界に引けを取らない技術の確立につながっています。そこには受発注者間の大きな信頼関係があったはずです。そういった経緯を考えると、発注者は「いいものを造る業者を選ぶ」のが当然です。総合評価に関しては、多くのエリアや企業からエントリーを募り、点数だけで評価する。それは発注者が受注者を選ばないという見方もできます。談合を防ぐ上で必要なのかもしれませんが、そこに参加するのは優良企業だけでなくなるリスクも今一度理解していただきたい。今回の問題を受け、製品を使用する前の試験、データ管理など吟味することが必要になってくるでしょうが、そのためには時間もコストもかかるということを受発注者間で認識しなくてはいけません。



長谷川 構造物の品質の安全・安心を揺るがす問題は業界全体に悪い影響を与えます。建設業は信頼が何より重要なのだと再認識する不祥事となりました。完成したものではなく、これから造るものを売り、それに対して誠意を尽くす商売です。地域に根差して仕事に取り組むわれわれとしては、不誠実で不良不適格な業者の存在は考えられないことです。発注者との信頼関係だけでなく、瑕疵(かし)なく工事を進めるためには下請けとの信頼関係も重要視しなくてはいけません。この問題を犯した当事者だけでなく、今後は正しいと立証できるデータ作成を求められるなど業界全体に波及してくることが考えられます。代替品の提供で済ませることができない建設業の難しさといえるのではないでしょうか。



司会 人口減少社会に向かっていく中、全産業を通じて人手不足が深刻化しています。建設業界も例外ではありません。むしろ、人材の減少を顕著に表している産業といえます。公共工事にしてもプロジェクト進行の大きな妨げに直結する問題でもあります。将来、インフラの担い手不足につながるこの問題をどのように考えていますか。



鈴木 市としても土木系の職員が不足しており、頭の痛い問題です。技術者不足は手抜き工事などずさんな施工につながりかねず、公共工事でそういったことが発覚すると、後々大きな問題となります。今後は、技術者を養成する学校を新設するなど国を挙げて環境を整えていかなければなりません。建設業はどうしても「きつい」「危険」といった印象がある産業です。有名な俳優らを起用した建設関連のドラマを作成すれば、若者が憧れを持つ大きなきっかけとなるのではないでしょうか。そうした一般向けのイメージ戦略も重要だと思います。また、市職員の中にも建築や造園関連で女性技術者がいますが、建設産業界全体でさらに増やしていく取り組みが必要でしょうね。



中村 静岡理工科大学が建築学科を創設するという非常に歓迎すべき話を聞いています。地元に建築学科があれば地元の建設業界に就職を希望する若者も増えます。こうした中長期的な展望が見込める取り組みに注目していきたいですね。ただ、人材不足は今に始まったことではなく、バブルやリーマンショックの時代も常に人材の取り合いをしてきたという印象があります。現在は、人口減少社会に向けてより顕在化しているのかもしれませんが、われわれは地場産業としてこのまちで永続的に生きていくため、社員と下請けを含め担い手を育成する義務があります。それには、社会的意義や地域貢献度の高い産業であることをアピールするとともに、働きに見合う所得と週休2日、安定成長の約束が最低条件となります。若手を呼び込むには、業界全体でこの条件を整えることに向き合わなくてはいけません。



長谷川 建設業はチームワークが必要な要素であり、そのチームの中心となるまで辛抱強く働いてほしいのですが、ここ10年ほど就業者が定着しないという実情があります。現代の若者が育つライフスタイルと外に出て汗を流し、ベテランや先輩の経験、知恵を学んで一人前の技術者となるプロセスに大きなギャップを感じて辞めてしまう例が多い気がします。特効薬はありませんが、就業者の両親や家族に対しても建設業の魅力を訴えていくことが必要だと思います。天竜区では小中学校の閉校もあり、人手に関して未来を考えると不安ばかりが募ります。ただ、保全に値する豊かで美しい自然があることは確かです。Uターン、Iターン、Jターンによる就業者を増やすためにも、建設業だけでなく区民が一体となって地域の魅力をどのように発信するか。それを真剣に考える時に差しかかっています。



司会 担い手不足に関連して工事の発注、施工時期の平準化も求められます。



鈴木 年度末に残りの案件をまとめて発注するということをやめ、債務負担行為の設定などを用いて計画的な発注スケジュールを崩さないように取り組んでいますが、もっと工夫が必要だと感じています。いずれにしても、担い手の不足や品質確保といった観点から工事が集中しないような発注時期と工期の設定に努めていきます。



中村 担い手の確保には、産業としての安定性や持続性、成長性が必要不可欠です。そのためには第1四半期の発注比率を高めて、1年を通して工事があるような状態が望ましいと思います。工事の平準化、分散化が進むことで、担い手に対して雇用と所得を保証できる確率が高まるほか、発注者側にも不調の回避、トータルコストの縮減といったメリットが生まれるはずです。



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16年度の戦略計画




長谷川智彦



司会 市長は、16年度の戦略計画で「やらまいか精神の復活」を提唱しています。この根幹となる部分と建設産業から見た「やらまいか」をお聞かせください。



鈴木 現在、市内では新規に立ち上げる会社数より、廃業する会社のほうが多く、「やらまいか」ではなく「やめまいか」に傾倒している状況です。浜松市は、多くの企業が切磋琢磨(せっさたくま)して成り立ってきた産業都市です。県庁所在地でもなければ、周囲に大都市があるわけでもない。ここまで成長を遂げたのは、自動車をはじめとする企業の努力が大きな礎となっています。今後、新たな産業を創出する企業への期待を込めて「やらまいか精神の復活」としました。この気風を取り戻さないことには、このまちは衰退していきます。浜松発祥の大企業はいずれも町工場からスタートしています。ものづくりだけに限らず、市内にある多くの企業がこの精神のもと、日々の業務に励んでもらいたいと思います。産業力が新たな雇用を生み設備投資につながり、建設業界の重要性もさらに増していきます。



中村 今後は地域間の競争が激化するのは間違いありません。まちの魅力と安全・安心に暮らせるインフラ、ライフラインがしっかり整っているといった総合力の高さが求められます。国は地方創生を提唱し、オリジナルな要素を持った自治体の取り組みを支援する姿勢でいます。浜松が持っている潜在能力は決して低くありません。農業産出額は全国第4位で、温暖な気候により晴天率も高く住みやすい。自動車をはじめとした産業も盛んで、ノーベル賞受賞者を生んだまちでもあります。文化・歴史としても徳川家康についての逸話が多くあり、浜名湖や秋葉山など風光明媚(めいび)な観光地もたくさんあります。やはり、市民一人一人が魅力を伝え、誇りを持つことが重要だと思います。それこそが「やらまいか精神」だと考えています。



長谷川 天竜区の「やらまいか」は、中山間地域の魅力づくりに直結します。現在、空き家が多くなっている現状があり、これ以上の人の流出を食い止めるためには独自色が必要だと思います。



司会 「やらまいか精神」に基づいた今後の社会基盤整備についてどういった展望をお持ちでしょうか。



鈴木 浜松版コンパクトシティーの実現です。中長期的なまちづくりとして、全国の地方都市では、いかにまちをコンパクトにしていくかが求められています。機能集約する拠点には、中心市街地や橋上駅舎化を進めているJRの天竜川駅、高塚駅周辺のほか、遠州鉄道の上島駅、浜北駅周辺など鉄道駅周辺が対象となります。また、昨年11月、公共施設の維持管理手法などを協議する自治体の首長50人による「資産経営・公民連携首長会議」が発足し、富山市の森雅志市長と次世代型路面電車システム(LRT)について意見を交わしました。富山市が廃線となったJRの軌道を利用したのに対し、浜松市では全ての軌道を新設しなければならず予算的に到底難しいというのが今の判断です。それよりも、既存のバスネットワークを生かして、車両の連結といった新たな交通システムの構築を目指すべきだと考えています。



中村 以前は、中心市街地に買い物や映画鑑賞など目的を持って人が集まりました。行けば癒やされる場所があり、心にゆとりを持たせてくれるまちづくりに期待したいですね。それは行政に頼りきるのではなく、企業も連携しまちづくりを真剣に考えなくてはいけないでしょう。



長谷川 天竜区は人の流出が顕著ですが、新東名高速道路の開通後は交通の利便性が格段に向上しています。さらに、長野県飯田市を通過するリニア計画とそこへつながる三遠南信自動車道の延伸など天竜区が活気付く大きな要素があります。大都市圏との距離がぐっと縮まるわけですから、見方を変えれば恵まれた地域であるのかもしれません。そうした将来の希望を踏まえ、動脈として相乗効果が見込める国道152号バイパスなど高規格道路の延伸とともに、地域内の道路や橋梁、トンネルといった毛細血管の整備に期待しています。



司会 最後に、それぞれの立場から今後の建設産業に必要なことを聞かせてください。



鈴木 新たなインフラ整備を推し進めるのは難しい時代です。既存のインフラをどう維持管理していくかが大きな課題であり、それに関連した技術をブラッシュアップしていくことが大切なのではないでしょうか。老朽化した施設の現状を調査し、どのように長寿命化、リニューアルするか効率のいい手法が求められています。また、建設業のノウハウを生かし、林業や農業へ進出するなどの変革も視野に入れることが必要になってくると思います。



中村 建設業界が安定し、伸び伸びと技術の研さんに励める環境が理想です。生き残るためには技術力を上げ、多角化していくことも必要となるでしょう。ただ、同業者が連携して防潮堤の整備に臨んでいるように、市民の安全・安心に向けて一体感を持つことも大切です。浜松市という枠組み全体で疲弊しないための取り組みを考えていきたいと思います。知恵を絞っていきたいですね。



長谷川 今後、天竜区では遊休資産が増加することが見込まれます。都市部への人口流出は免れず、そうしたことを見越したまちづくりを考えることが必要です。田舎暮らしを求めて移住してくる人もいますが、実際には便利な環境に戻っていく人が多いので、若者を含めこういった移住者の方が住み良い環境づくりを模索していきたいと考えています。



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