「健康」に働ける場をつくる
2022/5/23
建設現場の事務所エリア(作業所)は、現場管理の拠点であり、技術者や技能者がコミュニケーションを交わす場でもある。工事の完成後に撤去されるとはいえ、重要な仕事場であることは当然だ。大成建設は、心身ともに健康に働くことができる魅力的な職場環境を提供するため、安全や効率に加えて「働きがい」や「居心地の良さ」を考慮した「ウエルネス作業所」の運用を推進している。
先行的にウエルネス作業所を実現したモデルプロジェクトの一つが、「港区立赤坂中学校等整備工事」(東京都港区)だ。事務所と作業員の休憩スペース、売店の3棟で構成し、足場板と単管で作ったオープンスペースで各棟をつないだ。特にカウンターを備えた売店とオープンスペースは開放感のあるカフェのようで、一般的な作業所とは雰囲気が大きく異なる。屋内外に人が滞留できる空間をつくり、随所に交流を促す仕掛けを整備した。
作業所長を務める同社東京支店の伊田真司氏は、「社員、職長、職人のコミュニケーションが活発になった」と振り返る。落ち着いて食事を取り、休み、リラックスできる場を設けたことが、働く人同士の自然な声の掛け合いにつながり、行き違いなどのトラブル抑制にもつながった実感があるという。さらに、現場で働く様子を撮った写真を壁に貼り出すなど、職長会活動の活発化にもつながった。
大成建設は、ウエルネス作業所の具体化に当たり、建物構成や導入可能な設備・家具など100種超の“ウエルネスレシピ”を準備。これにより、赤坂中学校と同様にモデルに選ばれた千葉市新市庁舎整備工事では来訪者など外部に開かれたスペースを設置したり、下高井戸調整池工事(東京都杉並区)では働く人が居場所を自由に選べるようにしたりするなど、現場ごとに異なる工夫を凝らすことを可能にした。
2020年度にモデル事業での運用を開始した後、現場で実際に利用した人を対象にアンケート・ヒアリングなどの調査も実施。コミュニケーションの改善やリフレッシュ効果に加え、「現場を見ながらテラスで打ち合わせができ、問題点を共有できる」など生産性の向上に直接関わる回答が寄せられた。
もちろん、通常の作業所と比べればコストは増す。それでも、CSR(企業の社会的責任)の側面から前向きに評価する施主もあるという。ウエルネス作業所の企画・設計に携わった、同社設計本部・先端デザイン部先端デザイン室の出口亮課長は「こうした取り組みが建設業界に波及すれば、いわゆる3K(きつい・汚い・危険)イメージからの転換にもつながる」と期待を寄せる。
ウエルネス作業所は21年度にグッドデザイン賞を受賞した。同社は引き続き、現場のニーズと予算に応じながら“ウエルネスレシピ”を取り入れ、ウエルネス作業所の運用を推進していく。
SDGsの目標に位置付けられたこともあり、心身ともに満ち足りた健康的な状態を意味する「ウェルビーイング」という考え方が企業経営でも注目を集めている。建設業で最も重視される労働安全衛生の確保は、労働災害というマイナスをなくす取り組みだ。これを大前提とした上で、大成建設はウエルネス作業所を通じて「快適」などのプラス要素を増やそうとしている。建設業において、いかに積極的に健康を追い求めるか――。同社の取り組みは、その実践例の一つと言える。(編集局=宇野木翔)
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