JR東海は、日本の大動脈である首都圏〜中京圏〜近畿圏を結ぶ高速鉄道の運営を持続的に完遂していくため、超電導リニアによる東海道新幹線バイパスの建設を計画している。東海道新幹線は開業後46年を経過しようとしており、懸念されている将来の経年劣化や大規模災害に対する抜本的な備えを検討する時期にきている。このため、その役割を代替するバイパスについて、同社が開発してきた超電導リニアにより可及的速やかに実現することが必要とされている。同計画の実現により新たな交流による都市圏が生まれることで新たな便益がもたらされことが想定されており、特に中京圏に与える効果は絶大なものとなるだろう。今回は、いよいよ実現に向けて大きな一歩を踏み出した超電導リニアによる中央新幹線計画についてあらためて紹介する。
リニア中央新幹線のあゆみ
はじまりは1962年にリニアモーター推進浮上式鉄道の研究が開始されたことによるもので、10年後の72年には超電導磁気浮上LIM推進実験車浮上走行が成功し、79年には最高時速517`を達成。また、87年には有人走行で400.8`を達成するなど着実に技術を積み上げた。
2000年には「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」の技術評価で、課題はあるものの超高速大量輸送システムとして実用化に向けた技術上のめどは立ったものと考えられるとされ、05年には実用化の基盤技術が確立したと判断できるとされるにいたった。
中央新幹線は、運輸大臣が73年に全国新幹線鉄道整備法に基づく「基本計画」として決定し、翌74年には日本国有鉄道に対して甲府市付近・名古屋市付近間における山岳トンネル部の地形・地質などの調査を指示した。
また、90年には運輸大臣が東京都・大阪市間の地形・地質などの調査を指示。08年は国土交通大臣が全幹法第5条に基づく残る4項目の調査を指示するなどした。
10年には国土交通大臣が交通政策審議会(交政審)に対し営業主体と建設主体の指名と整備計画の決定について諮問し、翌11年5月には交政審が営業主体および建設主体の指名と整備計画の決定について答申し、国土交通大臣はJR東海を営業主体および建設主体に指名するとともに、整備計画を決定し、JR東海に対して建設を事業指示した。
中央新幹線(東京−名古屋間)計画の概要
JR東海は27年の開業を目指すリニア中央新幹線東京・名古屋間について、環境影響評価に向けた「計画段階環境配慮書」を公表し、概略ルートや駅の概略位置を示している。
岐阜県内の中間駅「岐阜県駅」はJR中央線の既存駅に近接する中津川市西部に設置し、当面の終点となる名古屋市の「ターミナル駅」は東海道新幹線と在来線名古屋駅付近の地下で東西方向に設置する案を提示。
概略ルートのうち「濃尾平野東部」区間は全区間がトンネルで、名古屋市ターミナル駅周辺を除き大深度地下で通過する計画だ。
中央新幹線東京・名古屋間は、東海道新幹線品川駅付近を起点とし、山梨リニア実験線などを経て、東海道新幹線名古屋駅付近までの延長268`。最高設計速度は時速505`。主要な線形条件は最小曲線半径8000b、最急勾配40パーミルで計画している。車両費を含む建設費は9兆0300億円。
計画路線は、地下駅やシールドトンネルなどの「大深部」、高架橋や橋梁、地上駅などの「明かり部」、山岳トンネルや橋梁の「山岳部」と「南アルプス部」に分かれ、大深度地下を使用できる地域では、できる限り大深度地下を活用する。
高架橋や橋梁の標準断面は、本線の軌道中心間隔が5.8bで構造物の幅が約14b。また、山岳トンネルとシールドトンネルの標準断面は、幅員が約13b、内空有効断面積が約74平方b。「大深部」には立て坑や換気施設などを設置する。
長野県・岐阜県の県境以西の概略ルートについてみると、「中央アルプス南縁西部〜濃尾平野東端」区間は恵那山の北方を通過し、土岐川右岸を通過。土岐川と木曽川の美濃高原は主にトンネルで通過し、多治見市北中部を回避する。本線と分岐して中津川市内に工場を含む車両基地を設置する計画。
また「濃尾平野東部」区間については、全区間をトンネルで通過し、名古屋市ターミナル駅周辺を除き、大深度地下で通過する。また入鹿池を回避し、名古屋市ターミナル駅へ東西方向に接続する。
名古屋市のターミナル駅は、東海道新幹線との乗り継ぎのため、名古屋駅付近の地下に、将来の大阪への延伸を考えて東西方向に設置する。一方、中間駅は、大深度地下を使用できる地域を除き地上駅を基本とする。
必要な条件として、@駅の形態は2面4線島式ホームと上下わたり線を設置できることA平面線形として直線で約1`確保可能で、縦断線系として原則レベル区間であること―としている。
「岐阜県駅」については、中津川市西部でJR中央線と並行する形で約20bの高さの地上で計画可能という。具体的な位置の確定に当たっては、駅周辺整備との整合などを図るため、関係機関と調整を進める。
JR東海は今後、今回候補地とした自治体と具体的な設置場所についてなどの検討に入っていくものとみられる。
また、駅の建設には多額なコストが想定される上、建設費用については地元の全額負担をJR東海が打ち出しているため、今後も紆余(うよ)曲折が見込まれる。