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明日に向けて―中小建設業と働き方改革(上)

 

ICTと週休2日で採用拡大

国土交通省と県の土木工事を主に手掛ける大竹組(徳島県牟岐町)では、17年間、新卒採用の応募がゼロだった。工業高校に新卒を募集しても応募がなかった。

[17年ぶりの新卒者]
 そんな状態に変化が生まれたのは、2016年ごろにICT施工に取り組み始めてからだ。工業高校に出前授業に出向くと、まず先生が会社に興味を持ってくれた。そして17年、工業高校の新卒者が1人入社した。その後、高校や工業高等専門学校からの新卒採用や中途採用が年々増加している。
 18年11月から完全週休2日制を導入したことも大きな追い風になった。21年春には新卒者を4人採用した。
 現在では、45人の社員のうち30歳未満が15人を占め、創業100年の老舗企業にもかかわらず、社員の平均年齢は39歳に若返っている。
 厚生労働省には、若者の採用・育成に取り組み、若者の雇用管理状況などが優良な中小企業を、若者雇用促進法に基づき厚生労働大臣が認定する「ユースエール認定制度」がある。大竹組は、その認定を16年度から継続して受けている。認定条件の一つである有給休暇の平均取得率(70%以上)は、19年度は92%に達した。
 「週休2日制の導入と有給休暇の取得促進など就労環境改善の取り組みが新卒社員の採用拡大につながった」と同社の喜井義典専務取締役は話す。

[子育て世代が増加]
 大竹組では、若い社員の増加に伴って、子育てをしている社員の割合が増えた。一方、土日の休みと有給休暇、子どもの看護休暇を合わせ、子育て世代の社員が働きやすい就労環境が生まれている。週休2日の導入などが、若者を会社に招き入れるとともに、入社後の働きやすい環境を形成するという、二重の効果を生んでいる。
 社員の若返りと働きやすい環境は、会社の活気や雰囲気づくりにもつながっている。「会社を訪れた人が、日本一雰囲気のいい会社だと見込んでくれ、ご自身の息子さんの入社に至ったケースもある」(喜井専務)という。「新入社員はほとんど辞めない」(同)。会社の雰囲気は定着率の高さも実現している。

閑散期の仕事の確保に苦労

週休2日制を導入する前、大竹組(徳島県牟岐町)の社員のうち約半数の技能者の給与形態は日給月給制だった。日給制のまま完全週休2日制を導入すると収入が減少する。また、日給制の社員にはもともと、収入を増やすため、できるだけ仕事に出たいという気持ちもあった。

[日給から月給へ]
 会社の労働時間は週40時間の1年単位の変形労働時間制をとっていた。しかし、技能者の社員が仕事に出ると技術者も出なければならないため、労働時間はいずれも週40時間を超えていた。
 そこで、これらの問題を解決するため、週休2日制の導入に合わせ、技能者の給与も月給制に変えた。もともと日給制の社員にも積極的に有給休暇を取らせていたため、月給制に変えても支障はないという判断もあった。年収が下がらないよう基本給を決め、合意を得た。
 日給月給制の廃止に伴い、退職金制度を、建設業退職金共済から中小企業退職金共済に移行し、手帳の管理や証紙の添付など、煩雑だった業務の負担を軽減した。また、給与計算のために発生していた経理担当者の残業も解消した。

[受注に奔走]
 しかし現状では問題もある。「4〜6月の閑散期の労務費の確保には苦労している」と喜井義典専務取締役は話す。労務費を捻出するため、下請け工事の受注や小規模工事の受注に奔走することもある。
 対策として、発注者による施工時期の平準化の推進に期待する。
 また、週休2日を実施する上では、経費の補正や工事成績での評価が得られる国土交通省などの週休2日工事が大きなインセンティブになっている。県の週休2日の対象工事はまだ一部だが、「対象が今後増えれば、週休2日は業界でさらに拡大するだろう」(喜井専務)。
 協力会社への代金には、日給月給の技能者の収入をカバーするため、国交省などの週休2日工事であれば補正分を上乗せしている。また、ある程度規模の大きな協力会社では、大手の仕事で週休2日に慣れてきているという。
 週休2日を実現する上で最も重要なこととして喜井専務は「経営陣がぶれないこと。実行を決意したら継続すること。工程に合わせた創意工夫で週休2日は必ず実現できる」と強調する。
 

新卒採用に必須の週休2日

官庁建築を中心に手掛ける渡辺組(横浜市)は2年前から事務職・技術職とも完全週休2日制を導入した。現場の技術職はそれまで4週6休をめどに、工程に応じて休みを決めていた。新たに導入した完全週休2日ではあるが、土曜日の現場を閉所にしているわけではない。土曜は閉所せず、交代制で週休2日にしている。渡邉一郎社長は、「工期やコストなどの点から、現在のところはこれが精一杯」と話す。

[採用応募が倍以上へ]
 完全週休2日にしたのは、それを求人票に明記しないと新卒採用が困難になってきたからだ。週休2日でなければ、応募の対象からまず除外されるという。工業高校と専門学校を対象に毎年10人ほど募集しているが、以前は3〜4人しか応募がなかった。実際に採用できたのは2〜3人程度で、ゼロの年もあった。週休2日制にしてからは10人ほど応募してくるようになり、5〜6人を採用している。
 同社の工事の約8割は公共建築が占めている。交代制であっても週休2日が可能であるのは、工期の面で一定の配慮がある公共建築が仕事の中心だからだと渡邉社長は言う。
 土曜日も閉所にする4週8閉所が理想ではあるが、多数の下請けが入り、設備業者もいる現場での調整は難しい。内装や設備など手作業が多い建築工事では作業の合理化にも限界がある。発注者指定の週休2日工事でなければ4週8閉所は困難なのが現状だ。
 民間建築であれば、発注者からは「1日でも早く完成させてくれ」という要望が強い。発注者から早くしてくれと言われたら嫌とは言えない。週休2日に関しては、「施工者で工夫してやってくれ」というのが民間発注者のスタンスだという。発注者には理解を求めたい。しかし、工期を含めて価格交渉になると、「休むために値段を上げてくれ」とは言いにくいのが実情だ。

[突貫工事は不可能に]
 数年前に工事が突貫工事≠ノなった。以前は何とか人が集まったので、対応できると考えたが、最終的に間に合わなかった。
 人手不足と担い手確保の課題は大きい。週休2日を維持していくため「工期の厳しい工事はできるだけ受けないようにもしている」(渡邉社長)という。
 

運送業の引き抜きに危機感

2024年4月から建設業とともに運送業でも時間外労働の罰則付き上限規制が適用される。その運送業がいま、人材獲得競争で建設業を脅かし、「建設業から運送業に転職する、引き抜きともいえる流れが生まれている」。花和産業(神奈川県横須賀市)の永井啓太常務取締役はそう指摘する。
 運送業では16年、インターネット通販の拡大による荷物量の増加と人手不足によって、長時間労働と残業代の未払い問題が噴出する、宅配クライシス≠ニ呼ばれる状態が顕在化した。問題に対応するため運送業界は、取り扱い荷物の総量規制や運賃の値上げに踏み切り、従業員の就労環境の改善と雇用の拡大に乗り出した。現在は、週休2日であることはもちろん、20代でも年収600万円になる会社もある。

[格好のターゲット]
 建設業では2〜3d車が運転できるように社員に準中型免許を取らせている。運送会社は3dクラスを運転できる人材が即戦力として欲しい。一方、建設業で働く若者は、必要な資格(免許)を持っているとともに、体力があり、道路網も知っている。さらに、休みの少なさや報酬に不満がある。「そんな建設業は運送業にとって、人材の引き抜きの格好のターゲットになっている」と永井常務はみる。
 宅配クライシスをきっかけに運送業は就労環境の整った成熟した産業に脱皮した。「一方、建設業は休みも報酬も世間並みではなく、人から選ばれない、未成熟な産業のままだ」と話す。
 公共土木工事を主体に手掛ける花和産業の社員数はグループ会社で30人余りだが、実際に昨年、勤続10年以上のベテラン1人と3〜4年の若者2人の計3人が運送業に転職した。地元の湘南エリアでは、運送業に引き抜かれた話は他社からも聞こえてくる。

[完全週休2日を決断]
 そんな「外的要因」をきっかけに花和産業は、2022年度からの完全週休2日制の導入を決断した。現在の勤務形態は、週40時間の年間の変形労働時間制で、会社指定の休日は89日(21年度)。完全週休2日にして、休日を21日増やして110日(22年度)にする。さらに、社員の約3分の2を占める技能者の給与形態を日給月給制から月給制に切り替える。
 新卒採用面で完全週休2日の効果はすぐに表れた。7月に地元であった22年春の新卒生の合同企業説明会で、同社のブースには10人以上が訪れた。
 

重要な経営者の意識改革

花和産業(神奈川県横須賀市)では、2022年度からの完全週休2日制の導入に向けて、21年1月から実現の可能性について検証に着手した。給与形態を日給月給制から月給制に変更する技能者との面談も実施。大半の社員が月給制を希望し、一部を除き4月以降、月給制に移行している。

[転職をやめた社員]
 給与形態変更の試算と検証を行っていたタイミングで、「会社を辞めたい。結婚するので、こんな不安定な収入の仕事を続けたくない」と言ってきた入社7年目の社員がいた。家庭を持つには、日給月給では不安定過ぎると言うのだ。昨年の3人の退職者と同様、転職先として運送業を考えていた。永井啓太常務取締役は、4月から月給制にすることを説明した。その社員は退職を思いとどまり、現在も働いている。
 4月からの給与形態の見直しに合わせ花和産業では、人事評価制度も導入した。年功序列の賃金に対して若い社員には不満があった。新たな人事評価で給与が上がった社員もいる。
 完全週休2日制の導入では業務の合理化が課題となる。しかし、施工管理では、パソコンやモバイルプリンターの活用、通信環境の整備などIT化によって合理化が進んできている。永井福男社長は「残業はここ何年かほとんどない。竣工間際でも、昔と比べ残業は大幅に減った」と話す。
 雨天時の休工や協力業者への対応も課題だ。これらについては徐々に解決していけると考えている。
 永井常務は「社員と面談で話してみると、現状では、やることがないのに出勤しているケースがあることが分かった。それを考えれば、完全週休2日制に対応できると社員から意見が出た」と言う。

[平準化が課題]
 施工の平準化も課題だ。公共工事では、国土交通省は積極的に平準化に取り組んでいるが、地元の神奈川県や横須賀市では対応が遅れている。同社では昨年、年間を通じて工事が発注される横浜市にグループ企業の拠点を置いた。「限られた発注者だけでなく、複数の自治体の工事を手掛けることも、平準化に関して経営上の選択となる」(永井常務)。
 また、経営トップの意識改革も重要だ。永井社長は「ほとんどの経営者には、完全週休2日制にするなら、給料も減らすべきという感覚がある。休日出勤が増えると懸念する人もいる」と打ち明ける。「しかし、現状を変えないとこの業界は衰退する」。そんな危機感が考えを変えた。
 
(「下」につづく)
 
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