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明日に向けて 中小建設業と働き方改革(下)

 

週休2日が広げた女性活用

国土交通省の仕事を中心に公共土木工事を手掛ける長瀬土建(岐阜県高山市)では、2019年秋にスタートした完全週休2日制が、雇用と人材活用の幅を広げている。子育てが一段落した40代の女性たちがこれまでに3人、新たに技術職の正社員として入社した。

[施工管理をサポート]
 CADオペレーターを主な業務とする採用だが、図面の修正などの仕事とともに、現場の予算の管理や積算、書類作成なども任せる。施工管理の仕事でこれまで重荷になっていたこれらの業務のサポートが、現場の仕事の効率化や時間外労働の削減につながる。
 新たに入社した女性たちの以前の職業はさまざまだ。しかし、共通するのは、子育ての期間のブランクを経て、あらためて自分の能力を発揮して仕事をしたいという強い思いだ。
 そんな女性たちについて長瀬雅彦社長は「社会経験があり、驚くほど優秀。仕事の呑み込みが早く、2級土木施工管理技士の資格を取りたいと言う人もいる。男性と同じ作業服を与えると喜んで着てくる」と目を細める。
 また、「女性が入ると会社が生き生きしてくる」という。18〜20歳の若い男性社員に対しても、「お母さんのように面倒を見てくれる」。
 そういった女性たちが入社したのも、会社が完全週休2日制になったからだ。土日には、子どもの面倒を見たり、家庭の用事をしたりしたい。そんな女性たちに対して週休2日制が新たに雇用の門戸を開いた。
 女性の活用は、週休2日をスタートする時点で長瀬社長の頭にあった。異業種への参入として取り組んでいる林業で、重機のオペレーターを任せても、CADで図面を描かせても、女性は上手だと感じていた。

[仕事への強い意欲]
 一方、一般的に正社員としての女性の中途採用はどの業種でも少ない。子育てに区切りの付いた30代後半以降の女性の再就職では特にそうだ。
 だからこそ、そういった女性たちに活躍の場をつくれば、「社会を知っていて、働くことへの意欲が強く、一番働くことができる女性が集まってくる。望んでいた人材が、願っていた仕事をしてくれる」(長瀬社長)。
 同社では今後も技術職の女性の正社員を増やしていく考えだ。
 

社員1人1人が働き方を改革

長瀬土建(岐阜県高山市)は、2019年秋の完全週休2日制の導入に合わせ、従業員一人一人が自らの業務の効率化について具体的な目標を社内で提示する「皆で目指す働き方改革宣言」を行った。4週6休で行っていた仕事を4週8休で終わらせるための具体策を、それぞれの社員が自分の課題として考えたのだ。その結果、4週8休を達成するだけにとどまらず、それまであった残業がなくなった。
 例えばある社員は、日中は必要もないのに漫然と現場で時間を費やしていた。夕方になって事務所に戻って書類作成に取り掛かっていた。そんな行動の結果、残業が増えていた。そこで、必要な指示を現場で済ませたら、すぐに事務所に戻って書類を作成することにした。

[各自が無駄を洗い出し]
 以前は、現場からの帰りが遅いほか、設計変更や、完成検査に間に合わないなど、さまざまな理由で残業が発生していた。しかし、週休2日制の導入に合わせて社員各自が仕事の無駄を洗い出したことで、業務の効率化が進み、残業もなくなったのだ。週休2日制を始めて以来、午後5時半になると長瀬雅彦社長が自ら事務所の鍵を閉めるようになった。その時間には事務所にはもう誰もいない。
 また、週休2日制に合わせて同社では、約30人の社員の半分を占める技能者の給与形態を日給月給制から月給制に変えた。さらに、現場の予算の管理も厳密に行うようにした。予算上の無駄をチェックする会議を毎月行っている。
 長瀬社長は社員に対して「『働き方改革』は経営者が行う。『働き方の改革』は社員が行う。その結果、みんなが目指すべき働き方が実現する」と言っている。「1日の仕事に目標を持ってもらう。これだけで残業をなくし、休日が増え、モチベーションを高め、いい仕事ができる」という。

[向上した施工の品質]
 週休2日をきっかけとした取り組みによって、工事の質が変わった。より高い工事成績評定を目指すとともに、利益も残すようになった。土日を休むことで、社員が疲れた顔をしていることがなくなり、月曜からしっかり働けるようになった。「週休2日のメリットは非常に多い。いまのところ悪いことは一つもない」と長瀬社長は話す。
 

若者にとって魅力ある会社に

岐阜県高山市の集計によると、2019年度に市内の高校を卒業した977人の生徒うち、市内の企業に就職したのは12・6%の123人だった。少子化と都市部への若者の流出によって、地方での企業の人材獲得は厳しさを増している。
 長瀬土建(岐阜県高山市)では毎年、高校の新卒生を1〜2人採用している。長瀬雅彦社長は、「地元の高校を卒業した若者の多くは進学や就職で市の外に出る。地元に残って就職する者の中には、地域で必要とされる人材になりたい、新しいことをやりたいと考える、目標の高い若者もいる。そういった人材が会社には必要だが、そんな若者の数は多くない」と話す。

[積み重ねた努力]
 そして、「目標を持った若者にとって魅力ある会社になろうと努力してきた」と言う。完全週休2日制の導入を含めたワーク・ライフ・バランスの実現や各種ISОの認証取得、ICT施工の導入、林業への参入、SDGs宣言などがそうだ。
 岐阜県には、将来の建設業の担い手の確保・育成に向けた「ぎふ建設人材育成リーディング企業認定制度」がある。ICT施工の導入や働き方改革の実施状況によってゴールド・シルバー・ブロンズの三つのランクで認定する。長瀬土建は17年にシルバーの認定を受け、完全週休2日制の導入によって19年はゴールドになった。
 また、経済産業省の「健康経営優良法人」の認定を20年から受けている。そして今年春、「岐阜県ワーク・ライフ・バランス推進エクセレント企業」に認定された。

[企業の姿勢を明示]
 長瀬社長は「SDGsに取り組み、企業としての姿勢や行動を示さないと若者が入ってこない。本人がいいと言っても、親がいいとは言わない。そんな時代になった」と考えている。
 高山市では、高校新卒者への企業説明会が年に4〜5回ある。その際、話を聞いてくる若者の意識が変わってきたと長瀬社長は感じる。ICT施工を動画で説明すると、目を輝かせて興味を示してくる。
 最近は大学生のインターンシップも増えた。長瀬社長は、これまでの取り組みの手応えを感じている。
 

目指すべきは働く喜び

完全週休2日制はいまや、新卒採用の必須条件になっている。日本の社会では、法定労働時間の週48時間から週40時間への移行に合わせ、1980年代後半から週休2日制の導入が広がった。公立学校も約20年前の2002年から完全週休2日になった。
 幼い頃から土日の休みになじんでいる今の若者の目には、土曜も働く建設業界は、就職の対象になりにくい、特異な産業に映るだろう。
 顕在化している担い手確保の課題に加え、24年度からは建設業にも時間外労働の罰則付き上限規制が適用される。これらの問題に対応するため、建設業の経営者はいま、週休2日の導入に向き合わざるを得ない状況になっている。
 しかし、全国建設業協会が20年8月1日時点の状況を調べた会員アンケートによると、完全週休2日となる4週8休制を導入している会員企業は、前年度より2・0ポイントアップしたものの13・4%にとどまる。
 中小建設業のある経営者は、周囲の同業者の姿勢に関して「『人が減ったね。しょうがないね』と、危機感を持たず、思考停止している経営者が少なくない。新卒採用に努力する気持ちも薄い。公共事業はくじが当たれば取れると、現状を受け入れ、経営を改善する気がない。日銭を欲しがる労働者で成り立っていた時代と感覚が変わっていない」と厳しく指摘する。
 日本に週休2日が定着した後も、長く建設業は取り残されてきた。その背景には、工期に関する施主の要求や、時期によって変動する工事量、日給月給の技能者の給与形態、天候によって影響を受ける工程など、さまざまな要因がある。
 今回の連載では、完全週休2日制の導入を中心に、中小建設業の働き方改革について4社の取り組みを取材した。取材を通じて浮かび上がってきたのは、担い手の確保にとどまらない、生産性や品質の向上などを通じた経営の持続性確保の可能性だ。

[週休2日は単なる入口]
 経営の持続に関して特に重要なのは、会社を支える一人一人の従業員が、働くことに喜びを感じられる環境づくりに違いない。
 「給料や休暇、福利厚生などで人は会社を選ぶ。しかし、仕事にやりがいを感じられなければ何の意味もない。最初からやりがいを持って入社してくる若者はいない。給料や休暇は単なる入口でしかない」。経営者の一人のそんな言葉が強く印象に残っている。
(おわり)
 
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