老朽化した高速道路構造物の大規模更新・修繕事業がスタートする。更新財源の確保(料金徴収期間の延長)を主目的とする道路法などの一部改正を受け、首都高速道路会社は6月、大規模更新・修繕に総額6262億円を投じる計画を立案。
東品川桟橋・鮫洲埋立部の大規模更新を皮切りとして、2014年度から順次事業に着手する方針だ。
東日本・中日本・西日本の高速道路会社3社(NEXCO3社)についても、1月の概略計画で総額3兆0200億円の大規模更新・修繕事業費を見積もっており、こちらも14年度からおおむね15年間で事業を展開する構え。
首都高の計画によると、大規模更新は3路線・5カ所の総延長8`で3775億円を掛けて実施する。初弾の東品川桟橋・鮫洲埋立部(1・7`)では、並行する都市計画道路のスペースに迂回(うかい)路を設けて高架構造に造り替える。
14〜26年度を事業期間とし、20年東京五輪時までに上り線を完成させる。(下図は首都高1号羽田線(東品川桟橋・鮫洲埋立部)更新イメージ)
また、事業費が1412億円で最大の竹橋〜江戸橋(2・9`)は、周辺の都市再生と一体で事業を実施して、疲労亀裂やひび割れが発生している高架を架け替える。擁壁の取り換えなどで大規模更新する銀座〜新富町(1・2`、559億円)とともに、東京五輪後の着工を目指す。
大規模修繕については、1973年以前ないし78年以前の設計基準で架けた橋梁55`の主要構造を補修する。事業費2487億円で、事業期間を14〜24年度としているが、五輪関連路線については20年までに完了させる。
一方、NEXCO3社は概略計画で、大規模更新の概算事業費を1兆7600億円と試算した。橋梁240`を対象に、コンクリート製の床版・桁をプレストレスト製のものに取り換えたり、架け替えることにしている。代表事例として▽名神高速道路・犬上川橋上り線(滋賀県)▽東北自動車道・福島須川橋上り線(福島県)▽阪和自動車道・松島高架橋上り線(和歌山県)―を挙げる。
また、大規模修繕は概算事業費を1兆2600億円と弾き、橋梁・土構造物・トンネルの合計1870`に各種対策を施す。
事業の進捗度合いは、先行する首都高と「1〜2年の差はある」(東日本高速・廣P博社長)としながらも、供用から50年前後がたつ京葉道路や第三京浜道路といった路線での優先実施を念頭に置いている。
東京メトロ(台東区)では、阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、保有しているトンネルや高架橋、地上部にある建物などの耐震補強工事を2012年度に完了している。一方、こうしたハードの整備とともに、各地に配置した地震計から得られた情報を活用して列車を運行するシステムを構築するなど、ソフト分野の強化も進めている。
具体的には、沿線6カ所に設置した地震計から、総合指令所の情報表示装置に地震警報を表示し、地震の規模に応じて電車の運転規制を行うほか、気象庁から発信される緊急地震速報を活用した早期地震警報システムも運用しており、既設の地震警報装置と併用することで地震発生時の安全対策をさらに強化する。
発災時の電力確保の面でも事前の備えは重要だ。同社では路線ごと複数ある変電所で電力会社から受電している。地震で一部の受電系統が停電しても、他系統から電力供給できる体制を構築済みで、電車の運行は確保される。また、電力会社からの受電が全て止まった場合も駅や電車内の非常灯、放送装置、非常通報装置はバッテリーにより稼働する。主要な駅には非常用発電機を整備しており、防災設備がきちんと作動するよう電源を確保している。
14年度の事業計画によれば、設備投資額として本年度計上したのは1048億円。火災対策として、排煙設備が未整備の駅への整備を促進する。また、総合指令所の免震化や非常電源の長時間化も進める。
自然災害対策としては、これまで補強不要と判定されていた高架橋柱の全てを対象とした補強工事を引き続き推進。また、石積み擁壁の補強も行う。大規模浸水対策では▽換気口への新型浸水防止機の設置▽止水板の改良▽腰壁のかさ上げ―なども実施する。