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■建設業の戦略営業 ―基本編―  =第9回=〜戦略営業・レベル5「提案営業ができる活動」@〜

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前回の戦略営業のレベル4「顧客ニーズを把握し、自社の優位性を促進する活動」に続いて、今回はレベル5「提案営業ができる活動」を解説する。
建設業界は請負業という特性上、はじめに設計図書があり、建設業者はその図面どおりに忠実に施工する事が常とされ、顧客に提案したり企画したりという営業に慣れていないところがある。
このコラムでも何度も語っているように、現在の建設市場では価格競争が沈静化する気配が未だに無く、戦略営業のレベル1から4の段階まで積み上げてきても、最後に価格勝負となって涙を飲む事も少なくない。だが、筆者は「だから最後は価格を叩いた(叩ける)業者が勝ち」とは決して思わないし、思いたくない。
安売り競争は企業の体力を消耗させる。営業という人間性の高い職務が、ただ顧客の前で値切るだけのレベルでは専門職としての意味もない。
これからの建設業は顧客に対する提案能力を磨き、価格競争という土俵から一歩離れたステージで戦わなければならない。特命比率を少しでも向上させたいと思えば、迷わず提案営業を試みる事である。もちろん、すべてにおいて提案さえすれば特命工事が受注できるという確証は無いかもしれない。それでも営業担当者は提案力で勝負できなければ第1回の連載で述べた“負け組営業”となってしまうのだ。
(1)成功事例をパターン化(標準化)する
あなたは提案営業というと難しく考えてしまうことはないだろうか。「当社にはノウハウが無い」とか「提案書など作成したり提出したことなど皆無」という人も多いかもしれない。しかし、実はそのようなあなたも、実は知らず知らずのうちに提案営業を行っているのだ。
あなたの会社はすべての受注工事を顧客から、ただ言われるままに施工されているだろうか。そのようなことはないはずである。顧客や設計会社と打ち合わせをしながら、細部にわたり現場の技術者が技術力を発揮しながら施工を行っているはずである。
つまりは一つひとつの施工物件は提案営業の作品なのである。施工物件はただ施工して引き渡すだけでは作品にならない。施工物件の企画の意図や特徴、自社の技術的な裏づけ、創意工夫などを成功事例集として顧客に提示できる文書にして初めて作品となる。
これら事例化した作品集を自社サーバーにデータベースとして建築物件ごと(集合住宅、老人ホーム、物流倉庫、ビジネスホテル等)に登録しておき、顧客から引き合いがある都度それらを営業担当者がプレ提案資料(本格的な提案資料の前の顧客との話のキッカケ用に用いる仮提案資料)として用いることができるようにするのだ。
(2)社内ノウハウを結集し本提案に勝つ
プレ提案の後がいよいよ本格的な提案(プロポーザル)となる。プレ提案をもとにまず営業担当者は顧客ニーズを的確に把握しなければならない。顧客の悩みや困りごとを聞き出し、自社のノウハウを総て結集して改善提案を導き出さなくてはならない。
この場合は案件ごとに社内ミーティングを開き、営業、工事、設計・積算、総務・経理など社内のメンバーを総動員して、受注を取るための提案の方策を検討するのである。 
これらを具現化するためには、常日頃から物件別の情報、ノウハウや業界別の特性などを専門的に研究する担当者を決めておき、プレ提案資料をベースに次々社内ノウハウを肉付けできるような蓄積を行っておくことである。
社内の各人が常に自発的に提案営業のためのノウハウ蓄積に努めるような体制が取られてこそ組織営業力が強化され、受注競争に勝てる体制が構築されるのである。
次回はこの連載の最後に組織的な提案営業活動についてふれたい。

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執筆者プロフィール

鞄本コンサルタントグループ 建設産業システム研究所 副部長コンサルタント  酒井 誠一