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■建設業の戦略営業 ―基本編―  =第10回=〜戦略営業・レベル5「提案営業ができる活動」A〜

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前回は戦略営業のレベル5「提案営業ができる活動」ということで、提案営業というものを難しく考えず、普段の何気ない顧客とのやり取りの中での成功事例を、提案営業のプレ提案資料としてデータベース化することをご紹介した。連載10回目の今回は最後に組織営業の概念と事例についてふれたい。
(1)組織営業とは
組織営業とは組織横断的な情報・ノウハウの共有化を進めながら、全社的な取り組みで受注に結びつける活動の事であり、受注成果(成約率)を向上させるには営業部門を中心に他部門を巻き込んだ組織営業体制が不可欠である。
組織営業のポイントは大きくは以下の3点となる。
1)受注支援体制
営業の顧客対応を支援し、受注促進するためには、
@顧客ニーズ(要求事項)の収集と明確化支援(同行営業、受注前施工検討会等)
A設計支援
Bプロポーザル資料(事業収支計画、技術提案資料等)の作成
C積算のスピードと精度アップ
D見積作成時のCD、VE等のコストダウン対応

2)全社営業体制による情報提供の促進
営業部門以外のメンバー(役員、社員他)からの営業情報の提供を促進する。
@現場営業による施主・発注者の増額工事・継続工事情報の収集・折衝および近隣対策にからむ工事情報
A社員の人脈からの情報協力
B工事や資材発注に絡む取引先(協力会社等)とのGT営業
C上記工事情報の営業情報データベース化

3)戦略商品の開発
市場戦略にもとづき、ターゲット顧客に対する戦略商品の開発を営業と施工部門の共同で行っていく。
@商品コンセプトの明確化
A商品の仕様の明確化
Bコスト管理(提示価格、NET原価)
C施工体制
D営業戦略と活動計画
Eプロモーション計画(DM、試験施工等)

(2)組織営業で大規模マンション改修工事を受注
マンション施工を得意とするある地場ゼネコンは最近増えてきたマンションの大規模改修工事の受注に力を入れている。マンションの改修工事は、以前であれば管理会社やマンション理事会の理事長とのパイプで決まる時代もあったが、最近はコンペ形式となり、住民代表のグループの前でのプレゼンテーションに成功しないと落とされてしまう。
このゼネコンではマンション改修工事の話があると、営業担当者と技術担当者が合同で対象マンションの状況を徹底的に調べる。管理会社はもとより、実際に住んでいるマンションの住民からも意見を聞き、綿密にプレゼンテーションの計画を練る。
プレゼンテーション資料は技術部門の若手社員がパワーポイントを使って住民が人目見て補修内容やスケジュールなどがわかるように作成する。
そして、コンペの前日には総合司会者、技術内容の説明者、スケジュールの説明者など、それぞれに役割分担を決めておき、社内で予行演習を行う。住民側の立場で部門長たちが立会い、「そんな説明のしかたでは何を訴えたいのかわからない」「素人の住民にそんな専門用語を使ってはダメだ!」などと厳しい指摘を行う。
こうして予行演習を経て住民に対する的確なプレゼンテーションを行い、住民からの支持を勝ち取り受注に結び付けている。

(3)積算部門を新設し、見積書作成を迅速化
企業によっても異なるが、官民問わず顧客対応の中で見積書作成の必要性が生じた際に、通常は工事部門で見積もる事が多い。ある程度の規模になると積算部門を設けているが中小の場合は工事部門長が行うケースが圧倒的に多い。
この場合、どうしても工事管理の片手間に積算を行うために見積書作成のスピードが遅れ、営業活動において支障が生じることがある。
ある地場の土木中小建設業では営業と工事部門の間に積算見積、1次予算書作成、購買業務を一手に行う積算部門(この企業では「原価管理部」という)を新設し、ベテランの技術者が図面を手に現地調査を行い、詳細なNET原価をスピーディーにはじいている。
特にこの企業の地域の入札工事は近年、一般競争工事が増え、正確に原価を算出しないと入札で勝てる札が入れられないのだ。
積算部門を新設した効果は大きく、営業が「受注は難しい」と見ていた工事でも競争力のある見積価格で見事受注するなど着々と成果が出ている。

 8月から連載を始めた「建設業の戦略営業−基本編−」は今回をもって終了致します。この間に「天の声」による官製談合により県知事3名が逮捕されるという異常な年となりました。今後は益々官庁工事の入札のハードルは高まり、低入札価格競争の地域も拡大するものと予想されます。
 読者諸兄の企業が企業改革のスピードを早め、来年度は戦略的な営業活動により新たな受注基盤を築かれる事を願ってやみません。(この連載終わり)

■問い合わせ先
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メールでのお問い合わせは kensetsu@niccon.co.jp

執筆者プロフィール

鞄本コンサルタントグループ 建設産業システム研究所 副部長コンサルタント  酒井 誠一