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中小建設業のためのM&A活用法
第6回 設備工事業におけるM&A事例

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 今回は設備工事業でのM&Aの成功事例を2件紹介します。設備工事業は最も活発にM&Aが行われている業種の一つといえます。特に近年は、総合設備業を目指す流れの中でのM&Aや、業容拡大のためのM&Aに加え、太陽光発電事業者による電気工事業の買収などの動きも活発になっています。

【事例1】M&Aにより総合設備工事業へ展開した事例

 譲渡企業A社は長年の業歴をもつ電気工事会社です。長年安定した経営を続けてきましたが、次の30年を考え、他社との提携を模索するに至りました。一方、譲受企業B社は空調・衛生設備工事業を営む中堅企業です。総合設備工事会社へ展開していくため、電気工事業への取り組みが必須であるとの認識の下、M&Aを積極的に検討していました。

 本件のポイントは「両社が明確なM&A戦略を持っていたこと」です。

 A社は、差し迫った後継者問題や先行き不安を抱えている企業ではありませんでしたが、次の30年の企業の存続・発展のために、戦略の一つとして大手企業グループに入り、存続していくためのM&Aを検討していました。早い段階でM&Aを検討開始したため、十分な相手探し、条件交渉が可能となり、満足度の高いM&Aを実現することができました。

 B社は、安定した業績を保っていましたが、さらなる元請比率の向上、そして新築物件が減少していく中で、リニューアル工事の受注を取り込んでいくためには総合提案力が必要だと痛感していました。特に電気工事に関しては、B社の競合企業は全て電気工事部門を自前で保有していることから、競争力強化のためにも早急に当部門の内製化を希望していました。今回A社を譲り受けることにより短期間で電気工事部門を手に入れることができました。

【事例2】民間中心の企業と公共中心の企業のM&A

 譲渡企業C社は、強電・弱電の電気工事設計施工会社です。資格保有者が多く、50年以上官公庁の工事をクレームなくこなしてきた確かな技術を持っています。しかし官公庁施設の入札工事による売上が大半で、粗利率の良い民間受注を増やせず、利益改善が望めない状況でした。直近の業績、将来性、多額の借入があるという現状を鑑み、事業継続のために譲渡を決断するに至りました。

 譲受企業D社は、LPガス販売などを行う中堅企業です。LPガスサービスのみのサービス展開に限界を感じ、ガスと電気の複合提案の必要性を感じていました。しかし電気に関してはノウハウがなく、電気工事施工管理技士の採用も困難であることから、ノウハウ蓄積を目的にM&Aを検討していました。

 本件のポイントは「相乗効果によるC社の業績回復」と「人材・ノウハウの獲得」です。

 C社は借入過多となっており事業の継続が難しい状況にありましたが、D社の家庭用太陽光発電システム販売の際に、小規模工事が大量に見込めることからすぐに仕事が増やせるという明確な相乗効果がありました。

 また、D社は採用の困難である資格者の確保、電気のノウハウの獲得を短期間に実現することができました。自社で資格者を採用する時間やコストを考えると、一定ののれん代を加えてもM&Aの方が割安で、かつ効果が見込みやすく、今回のM&Aを決断することとなりました。

執筆者プロフィール

日本M&Aセンター 西田賢史

西田賢史
日本M&Aセンター
http://www.nihon-ma.co.jp/