建通新聞社

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建設不動産会社の顧客目線・顧客重視の実現
〜問題の可視化と履歴管理によるマンション建物バリューアップのコツ〜
第2回 三権分立が成立していない、独裁政権!?

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 建設不動産業界に対する一般消費者の印象はどのようなものでしょうか?「ブラック」「よくわからない」「大切なことを隠す」――。不本意なことに、あまりクリーンな印象を受けていないようです。

 なぜなのでしょうか。

 一般論として、供給者と消費者との間で情報ギャップが大きい業界においては、ダークなイメージがつきやすい傾向にあります。これを埋めるために雑誌や情報サイト、解説をするコンサルタント、消費者の中でもその分野に深い造詣をもった「プロ消費者」等が活躍したりし、情報の透明性が高められています。また、リコールなど消費者を保護するための制度が整備されるなど、「消費者」が常に主役に立ち、業界全体の浄化作用が働いています。

 建設不動産業界はどうでしょうか?

 私は建物検査などさまざまなコンサルティング業務を請け負っていますが、このような浄化作用が働く方向には全くなっていないように感じます。もちろん法制度は整っていますし、不動産流通時に「インスペクター制度」の普及を進めようとする機運があるのは事実ですが、消費者が本当に大きな負担を強いられる可能性のあるスケルトン部分については、まだまだ透明性を高める流れには程遠い状況です。

 例えばスケルトン部分に瑕疵(かし)のある可能性があり供給者との間で交渉しようとするケースにおいて、立証義務は消費者側にあります。マンションなどでは調査費用も大きなものとなるため、結果を保証できない調査への出費には二の足を踏む管理組合が多く、経験上「何かある」と感じてもそのままとなっているケースが非常に多い。つまり、供給者に対抗する「武器」を消費者側が持たないのと同じ状況になっているのです。

 これは業界の仕組みそのものにも大きな問題があるのではないかと、考えています。ものづくりにおいて3つの基礎となる「工期」「品質」「コスト」は本来相反するものです。顧客重視という観点からすると、最も重要なのは「品質」であることは言うまでもありません。本来これをチェックする役目として「設計監理者」がおり「確認検査」という制度が用意されているのですが、これが機能していない例を見受けます。さらに日本独特の「設計施工」というすべてを包括した仕組み(デベロッパーの存在)は、消費者にとって「お任せで、楽」という国民性にはマッチしているかもしれませんが、逆にこれが全てを包み込んでしまい、どんな瑕疵が内包されていても「何かあったら責任を取ります」というデベロッパーの言葉により、たった10年間の瑕疵保証で消費者が納得させられている…こんなところにあるのではないでしょうか。

 本来的にはCMr(コンストラクションマネジャー)としての役割を担うデベロッパーが、ゼネコンという名の下請けと一緒になって、消費者にすべき説明責任を果たしていない…。まさに独裁政権といえるのではないでしょうか。これでは「顧客重視」ではなく「供給者保護」のようです。これがダークな印象を受ける要因の一つではないかと、考えています。

 供給者が顧客重視であるためになにをすべきか。次回以降はそのヒントをお話ししていきます。

執筆者プロフィール

株式会社建物検査・調査・診断研究所(Biid) 代表取締役社長 安部博文

安部博文
株式会社建物検査・調査・診断研究所(Biid) 代表取締役社長
info@biid.co.jp
一級建築士、一級施工管理技士、住宅性能評価員。20年間の施工現場経験を礎として、検査業務に従事して10年以上。豊富な経験と「本質を突き詰める」鋭い視線で新築施工検査、既存建物調査に挑む。趣味は釣り。息子と猫を溺愛。1963年島根県出身。 http://www.biid.co.jp