建通新聞社

建設ニュース、入札情報の建通新聞。[建設専門紙]

建設不動産会社の顧客目線・顧客重視の実現
〜問題の可視化と履歴管理によるマンション建物バリューアップのコツ〜
第5回 顧客重視が供給者自身を守る

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 情報開示、情報伝達というお話でした。
 顧客重視のために必要なもう一つのこと。それはトレーサビリティ、追跡可能な状態で記録をとることです。

 私たちは数多くの既存建物調査を行っています。その中には不幸なことに、消費者の考え方と、供給者である建設不動産会社の考え方との間に大きな乖離(かいり)が起き、法廷の場での係争に陥っているケースもあります。このような状況に至るまで、どのような段階を踏むのか、検証してみましょう。

【第1段階】
消費者が何らかの不具合を発見し供給者に対応を求める
→供給者側は最低限の対応で済ませる、もしくは消費者側を「説得」しようとする

【第2段階】
消費者はその対応に不満、不信感を持ち供給者に疑念を持ち始める
→供給者側は何とか収めようと「交渉」に入り、時間だけが刻々と進んで行く
→消費者は攻撃的な状況に入り始める

【第3段階】
消費者の疑念が高まり、疑念の対象が不具合箇所以外の建物全体に移る
→供給者側が対応しきれなくなり、双方の関係修復は困難な状況に
→消費者の要求はオーバースペックになりがち。SNS等での拡散、マスコミへのリーク、法的係争などに発展するケースも


 なぜこんな状況に陥るのでしょうか?
 供給者の側に
「消費者はよくわかってないから、細かいことを説明しても無駄」
「丁寧に説明して謝ればなんとかなるだろう」
などという気持ちが少しでもありませんか?
 こういった供給者のおごり、思い込みが消費者の感情を逆なですることがほとんどです。

 これは人間関係が現在よりも濃密であった時代、「プロに任せておけば大丈夫だろう」と多くの消費者が考えていた時代には、(供給者の悪意、善意は関係なく)通用した手法かもしれません。
 しかしながら現在は消費者と供給者の人間関係は希薄であり、良い情報・悪い情報、正しい情報・誤った情報がインターネットやマスメディアを通じて氾濫している時代ゆえに、人間関係が構築できていると供給者が思い込んでいたら、消費者は豹変(ひょうへん)します。

 誤解を恐れずに言えば、消費者の全てが善意とも言い切れない時代ゆえ、供給者と消費者との関係は、「情報とデータでつながってる」とも言えます。
 つまり、事業者(供給者)が顧客重視であること、事業者と消費者が信頼関係をもってつながるためには、事業者側が自身の提供する商品に対し、商品を消費者に届けるまでの過程を明確にしてする仕組みを構築し、これを販売前・販売後と必要に応じて開示できるようにしておくことが重要なのです。

 私は検査会社として、供給者側の経営者や施工、品質管理責任者、担当の方々とお話しする機会があります。残念ながら、
「全ての現場状況を開示なんてしたら、大変なことになる」
「そんなことまで対応していられない」
と言った考え方の方が、まだ多くいるのが実情です。
 顧客重視がすなわち供給者自身を守ることにつながるという事、この業界ではなかなか理解をされないのが実情なのです。

 言葉を選ばずに言えば、現場状況を開示して大変なことになるような供給者は、本来消費者に建物を販売してはならない、市場から排除されなくてはならないプレーヤーです。
 勿論、施工は人の手によるものだから、ミスの発生は避けられないことも十分に理解しています。このようなとき、記録がしっかりと残っていれば、ダメなものはダメとして認め、消費者に対し誠意をもって謝意を伝えること、ダメなところをきっちりと修繕する。
 これが「顧客重視」ではないでしょうか。

執筆者プロフィール

株式会社建物検査・調査・診断研究所(Biid) 代表取締役社長 安部博文

安部博文
株式会社建物検査・調査・診断研究所(Biid) 代表取締役社長
info@biid.co.jp
一級建築士、一級施工管理技士、住宅性能評価員。20年間の施工現場経験を礎として、検査業務に従事して10年以上。豊富な経験と「本質を突き詰める」鋭い視線で新築施工検査、既存建物調査に挑む。趣味は釣り。息子と猫を溺愛。1963年島根県出身。 http://www.biid.co.jp