建通新聞社

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建設不動産会社の顧客目線・顧客重視の実現
〜問題の可視化と履歴管理によるマンション建物バリューアップのコツ〜
第6回 インスペクター真摯?紳士?

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 さて、ここで今後ますます、情報開示とトレーサビリティが重要視されると言える、一つの法律改正についてお話します。それは今年4月から施行されている、宅建業法の改正。近いようで遠い、切っては離せない不動産業界における大きな動きです。
 改正法第34条、第35条にこの辺りの記載があります。ざっくりいうと「建物状況調査(インスペクション)のあっせんに関する事項を媒介契約書面に追加」「インスペクション結果の概要を重要事項説明に記載」という2点です。業界全体としても、このインスペクションを普及させ、一般消費者に対して利用を促す啓蒙(けいもう)活動をするよう、明確な方針として打ち出しています。

いまだピンときませんね。

 実はこのインスペクション、言葉として定着させ法改正に至るまで、10年以上の時間がかかり、多くの人々の苦労の上にようやく実現した制度です。いまだ啓蒙(けいもう)活動段階でもあり、制度としても見直す点が多くあるように思えますが、今後義務化するような可能性も考えられ、普及が進んでいくでしょう。
 これが建設不動産業界にとってどんな影響があるかというと、「一般消費者が今までよりも建物本体に関心を持つようになる」、そして「さまざまなプレーヤーがインスペクション業界に参入してくる」ということなのです。

 不動産を取得するにあたって、これまでは立地と間取り、内装で意思決定をする一般消費者がほとんどでした。構造やその他基本性能に不具合があることを前提としていなかったのです。しかしさまざまなニュースなどの影響もあり、全てが安心、安全ではないんだなということを消費者が感じ始めたのです。折しも大きな地震があるとますます不安を感じ、インスペクターのような第三者を使って、安心、安全の確認をしようとするモチベーションが高まるわけです。

 これ、そのものは個人的にも素晴らしいことだと思っています。インスペクションが普及し一般消費者の方々がより一層建物本体への関心を高めることで、中古住宅の価値算定が進むことで、中古住宅の流通が促進することにもつながります。
 一方で「さまざまなプレーヤーがインスペクション業界に参入してくる」ことが実は建設不動産業界に対して影響を及ぼす可能性があるのです。つまり「業界人の全てが良心的とは限らない」ということです。
 私たち検査業界は未だ歴史が浅い業界。残念ながらすべての検査会社、インスペクターが顧客重視であるとは限りません。実際には自社もしくはインスペクター個人を売り込むために、顧客からお預かりした案件をマスコミにリークをしたり、一般消費者からの信頼を得るため、過剰に顧客をあおり、問題を大きくしたりするようなプレーヤーが存在するのが事実です。

 これまでお話をしてきた通り、本来建設不動産業界における主役は最終的な利用者である一般消費者であり、事業会社です。そして資金の出し手であるデベロッパーやビルダー、銀行やファンド等がこれを支え、建物をつくるゼネコン、工務店が存在するのです。

 私たちのような検査会社やインスペクターは本来黒子に徹するべきであり、注目を浴び目立つことは「あるべき姿」とはかけ離れたものだと私は考えます。前述したようなスタンスで検査を行うような検査会社、インスペクターは自らの存在感を主張することが目的になりますから、総じてあら探しを行い、騒ぎ立てます。

 供給者としては、このようなインスペクターにあら探しをされないよう、しっかりとした根拠をもって説明責任を果たすことが必要です。供給者が自社を守るために準備をすること、これが結果として顧客重視につながる、という図式なのです。
 もちろん、きちんとした施工をすることが大前提とはなるのですが。

 末筆とはなりましたが、この度の大阪北部を震源とする地震により被災された方々、ご家族が亡くなられた方々に心からご冥福をお祈りいたします。

執筆者プロフィール

株式会社建物検査・調査・診断研究所(Biid) 代表取締役社長 安部博文

安部博文
株式会社建物検査・調査・診断研究所(Biid) 代表取締役社長
nfo@biid.co.jp
一級建築士、一級施工管理技士、住宅性能評価員。20年間の施工現場経験を礎として、検査業務に従事して10年以上。豊富な経験と「本質を突き詰める」鋭い視線で新築施工検査、既存建物調査に挑む。趣味は釣り。息子と猫を溺愛。1963年島根県出身。 http://www.biid.co.jp