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建設不動産会社の顧客目線・顧客重視の実現
〜問題の可視化と履歴管理によるマンション建物バリューアップのコツ〜
第9回 事件は現場で起きている!実例を解説<前編>

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 今回と次回は、一般消費者と供給者との間で発生した現在進行中の案件を取り上げて、実際にどんなやりとりがなされているかについて解説していくことにしましょう。
 
 とあるマンションでのお話。

 そのマンションの管理組合理事会では、設計コンサルタントの方と一緒になって大規模修繕工事の準備をしていました。
 建物診断等を進める中で、どうも瑕疵を抱えている状況にあるのではないか、という疑問がわき、設計コンサルタントの方が理事会に弊社の話をされ、弊社が問題解決コンサルタントとして関わることとなりました。

 現状把握のため建物調査を行ったところ、数カ所での順法性違反、数多くのクラックとタイル浮きの多さが見られました。ここからマンション管理組合理事会と施工会社との間で、1年にわたる交渉が始まったのです。

 理事会としては大規模修繕工事をできる限り予定通り進めること、予算が過大にならないことを当然に考えます。修繕積立金も十分でなく、借り入れと修繕積立金の値上げをパッケージとした計画をされているものの、本来修繕積立金で支払うべきでない不具合については、理事会としても「施工会社が負担すべき」との考えに至りました。

 一方で、協力しあえるところは協力をすべきとの考えのもと、「修繕工事のための足場を利用して、不具合部分の修繕を行いましょう」との方向性でまとまりました。

 組合から施工会社へのファーストアクションは「意見伺い書」といったものでしょうか。既に販売会社が破綻しており、かつ瑕疵(かし)担保期間を過ぎた難しい案件です。施工会社としてどの程度建物に対する責任負担をする意向があるかを確認し書面にまとめようというものでした。

 しかし、施工会社の当初の回答は、決して前向きなものではありませんでした。外壁タイル剥離の件については、判例もあり修繕の必要があることを認めながらも、「書面を交わすことはできない」、その他の項目についえは「既に瑕疵担保期間を過ぎており責任を感じてはいない」というのが一次回答でした。

 ここに初動対応として、一つの間違いがあったと私は考えます。想定の範囲とはいえ、理事会としては到底納得がいくものではなく、施工会社に対する不信感が一気に膨らむこととなりました。

 結論からすると、数カ月後、不具合修繕に関し「経年劣化以上のタイル剥離は施工会社の責任と費用をもって修繕」「その他の不具合項目についても調査の上必要に応じて施工会社の責任と費用をもって修繕」という内容の合意を取り付けることになりました。そこに至るまでは一つ一つの現象について当社が専門的な知見で説明を行い、本来の在り方を説明し現地において何度も何度も打ち合わせを重ねました。

 きっと初動の段階で「発生した事象に対するおわび」「調査の必要性」「結果によっては費用負担を行う」までの話を施工会社から行っていれば、理事会の印象は大きく異なったはずでした。
 そして建築過程の記録がしっかりと残っていれば、責任の所在があいまいなまま、何が問題かを推察しながら厳しい交渉の場面に入っていく必要がなかったかもしれないのです。

執筆者プロフィール

株式会社建物検査・調査・診断研究所(Biid) 代表取締役社長 安部博文

安部博文
株式会社建物検査・調査・診断研究所(Biid) 代表取締役社長
info@biid.co.jp
一級建築士、一級施工管理技士、住宅性能評価員。20年間の施工現場経験を礎として、検査業務に従事して10年以上。豊富な経験と「本質を突き詰める」鋭い視線で新築施工検査、既存建物調査に挑む。趣味は釣り。息子と猫を溺愛。1963年島根県出身。 http://www.biid.co.jp