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方向性と目的の一致が永続的な収益向上をもたらす
第3回 従業員に社長の価値観を押し付けても他人事になる

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 第1回【仕事の目的と会社の方向性を伝わるレベルで言葉にする】と、第2回【補助金申請の項目に経営理念の質問がある時代】では、経営理念とは何なのか?の定義を整えさせていただきました。

 定義のズレは、伝える側と受け取る側で捉え方が違った状態。認識のギャップが大きいほど、それ以降の思考、行動に影響し、結果も大きく変わります。

 指示する時も同じで時間や量を表す『早め』『沢山』は曖昧な言葉です。例えば、早めと伝える側は今日の昼まで、受け取る側は明日のうちが期限だと自己判断したなら、間違いなくトラブル発生です。そうならないためには、時間と量を数値化して伝える必要があります。『明日の12時までにメールで提出』、『粗利10%増の3300万円』など、数値化すると明確になるため、表現の工夫は改善できる要素になります。

 ただし、それには伝える側にも決め切る必要があり、そもそも『なぜ早くする必要があるのか?』、『なぜ沢山必要なのか?』を双方とも根本的に理解しなければなりません。

 以下は、同じクレームが起きた場合、理解度の違いにより判断と行動が変わる事例です。

Aさん:クレーム(出来事)⇒関わりたくない(判断)⇒できる限り逃げる(行動)

Bさん:クレーム(出来事)⇒お客様が困る(判断) ⇒電話でひたすら謝る(行動)

Cさん:クレーム(出来事)⇒チャンスが来た(判断)⇒お詫びと提案で訪ねる(行動)

 極端な例ですが、『どの人が収益向上をもたらすのか?』は、おそらくCさんだと思います。ここでの大事なポイントは、どんな行動をするかはマニュアルで表現できても、判断基準は人の価値観なので、個々に依存してしまうということです。

 そこで重要な役割を果たすのが、経営理念にあるバリュー(価値観、行動指針)です。仮にCさんの判断基準が会社として最善ならば、その価値観を言葉にして日常業務の当たり前にすることで収益は向上します。

 ところが、その判断基準を社長が一方的に決めたとしたら、他人事になるかもしれません。特に人の価値観は押し付けを嫌い、尊重を好みます。実際に営業、現場管理、現場作業、経理、総務など業務の最前線にいる方は、自身の価値観を大切にして、仕事に取り組まれています。逆の見方をすれば、最前線の人達の価値観は、会社にとって財産なわけです。

 その大切な価値観を社内全員から募り、その言葉を選び抜く過程を経ることで、出来上がった言葉が自分事に近づきます。また、あえて巻き込んで手間をかければ、他人事に出来ない理由付けにもなります。

 そして『これで行動を改善できるはずだ!』と期待したいところですが、経営理念の策定は、まだ賛同と聴く姿勢が整った状態。思考や行動に反映させるには、価値観や習慣の書き換えが必要です。

 次回は、ここぞ!という時に踏ん張れる経営理念の浸透や承継についてお伝えします。

執筆者プロフィール

株式会社心楽コンサルティング代表取締役 想いとお金の両立パートナー 出口 経尊(でぐち みちたか)

出口 経尊(でぐち みちたか)
株式会社心楽コンサルティング代表取締役 想いとお金の両立パートナー
建設関連を専門にチャレンジできる場を整え、物心両面で豊かにする想いとお金の両立パートナー。徳島文理大学工学部機械電子科を卒業後、建設会社勤務を経て、2000年から建設業に特化した工務店の集客や協力業者との業務改善に携わり、16年に心楽コンサルティングを創業した。現在は建設業をはじめ、製造業、士業などで経営理念の策定やキャッシュフローの計画策定、チームワークを強化する研修を通して、経営者が理想とするビジョン実現をサポートしている。また、中小企業だけでなく、メーカーや団体が主催する講演、研修も行う。経営士、理念実現パートナー、キャッシュフローコーチの資格を取得。香川県出身。365日ブログ更新中(http://shinraku.biz/)