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選ばれる建設会社になるための労務管理
第7回 建設業における人手不足対策についてA

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 今回は、建設業における「人手不足対策」のうち、「人材採用・定着(人材定着)」について、取り上げます。

 せっかく採用した人材を定着させるためには、「選ばれる建設会社になるための魅力ある労務管理」の実践が必要不可欠です。具体的には、次の3つのステップを必ず【ステップ1】から取り組む必要があります。

【ステップ1】
法整備 〜労務管理の土台を整える〜

 労働基準法などの法令遵守、雇用契約書の作成、加入義務がある社会保険・労働保険の加入、従業員の労働時間の管理、適正な割増賃金の支払い

【ステップ2】
ルールの明確化 〜ルールや基準を明確にし、トラブルを防ぐ〜

 就業規則の作成、採用基準の明確化

【ステップ3】
人事評価と人材育成 〜働きがいのある会社を目指す〜

 人事評価制度の導入、賃金制度の導入、定期面談の実施、社員教育制度の導入


 例えば、マンションや高層ビルを建築するときも、土台となる基礎工事が出来ていないと、欠陥住宅になるというリスクが潜んでいるように、魅力ある会社の労務管理も【ステップ1】の法整備が出来ていないと、土台がぐらつき、思うような成果がでません。 

 【ステップ1】は、労務管理における基礎工事のような土台となる部分です。法律で決められているルールを守り、社員が安心して働くことができる職場環境の土台を整えます。特に中小建設会社においては、労働時間管理や雇用契約書の未対応、社会保険の未加入問題などもあり、まずはここから実践する必要があります。

 次の 【ステップ2】では、従業員同士が気持ちよく働ける職場とするため、社内ルールの明確化(就業規則の作成)が必要です。ルールが明確でないと、お互いの価値観や優先すべきことがぶつかり合い、無用な争いがおきる可能性が高まり、会社とのトラブル(労使トラブル)にもつながります。会社と従業員、従業員同士が気持ちよく働くためにも、最低限の社内ルールである「就業規則」の作成を行う必要があります。
 
 そして、【ステップ3】では、人材定着の本題となる「働きがいのある職場作り」を実践します。人手不足時代においては、どれだけ1人1人の従業員の能力を引き出せるかに企業の生き残りがかかっているといっても過言ではありません。例えばある建設会社では、業務上の資格取得を奨励しており、資格取得と給与額が連動しているため、前向きな従業員が各分野の多くの資格を取得し、会社全体の有資格者の増加に繋がり、営業活動における経営審査の点数にも効果がでているという事例もあります。また、職業能力体系を作成し、人事評価と人材育成に活用している建設会社では、人事評価により、従業員のモチベーションがアップし、離職率が下がったというケースもあります。

 高度な要求に応えられる優秀な人材を確保し、育成するためにも、公平な評価制度や中長期的な人材育成制度を構築していく取組みが必要です。

 次回は、引き続き「選ばれる建設会社になるための魅力ある労務管理」の【ステップ3】のうち、人材育成について取り上げて参ります。

※各事例は厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」の働き方改革取組・参考事例一覧より一部抜粋

執筆者プロフィール

株式会社シエーナ代表取締役/社会保険労務士 吉川 直子

吉川 直子
株式会社シエーナ代表取締役/社会保険労務士
社会保険労務士/(一財)生涯学習開発財団認定コーチ。大学卒業後、アパレルメーカー、労働保険事務組合、社会保険労務士事務所等に勤務後2005年に社会保険労務士として独立。人材育成への関心からコーチングのトレーニングを2003年より開始し、プロコーチとしても活動する。その後コーチング事業を法人化し、2011年株式会社シエーナを設立。現在は、企業向けコーチング、企業研修、人事評価制度の構築、就業規則の作成、人事労務相談等を中心に活動中。プライベートでは1児の母。建設業向けの各種事業主団体や商工会議所等の講演、企業研修の実績多数。著書に「社会保険・労働保険手続きインデックス(税務研究会出版局)」「中小会社の人事・労務・人材活用図解マニュアル(大泉書店)」 「人ひとり雇うときに読む本(中経出版)」などがある。https://sce-na.com/(株式会社シエーナ ホームページ) https://sce-na.net/(社会保険労務士シエーナ ホームページ) https://kensetsu-jinzai.com/(建設業様向けホームページ)