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選ばれる建設会社になるための労務管理
第8回 建設業における人手不足対策についてB

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 今回は、引き続き、建設業における「人手不足対策」のうち、「人材採用・定着(人材育成)」について取り上げます。

 いま最も課題とされている人材育成のテーマは、管理職(職長等含む)のマネジメントスキルの向上です。例えば、ある建設会社では、人材育成を行うことで、定着率がアップし、勤続年数20年以上のベテラン社員が全体の50%以上となったため、生産性が向上し、残業時間が減少したという事例もあります。人手不足の中、人材を確保しつつ、成果を上げるためには、1人1人の能力を上げ、効率をアップし、かつチーム力を上げて生産性を向上しなければなりません。

 それでは、管理職は、どのように部下をマネジメントする必要があるのでしょうか。まずは、@管理職自身のプレイヤーとしての活躍を手放し、A部下の多様性や価値観に基づいた個別のマネジメントを行うこと、が必要です。

 管理職になる方は、もともとプレイヤーとして優秀であるため、自分自身がメインプレイヤーとして動いてしまい、結果として人材育成のためのマネジメントが後回しになっています(【図表】の上段参照)。そこで、意識的にプレイヤーとしての活躍を手放し、マネジメントの実践へシフトすることが必要です(【図表】の下段参照)。また、現在は、多様な価値観や個人主義的な考え方が広がり、部下の行動を「管理」するだけでは部下の能力を上げ、生産性の向上を行うことができません。したがって、部下の個性・価値観を尊重しつつ各人の持つ能力を最大限に引き出し、組織の進む方向へ適合発展させていくための個別のマネジメントが必要です。

 なお、個別のマネジメント手法の1つに「コーチ型マネジメメント」という手法があります。これまで主流だった「指示命令型マネジメント」は、どちらかというと「上司⇒部下」と一方的なコミュニケーションであることに対して、「コーチ型マネジメント」は「上司⇔部下」と双方向のコミュニケーションを交わすことで、部下のやる気を引き出し、自分で考えて自分から動いてもらうということを目指します。

 もちろん、部下によってアプローチ方法を変えるということが大事であり、特に幹部社員や管理職、ベテラン社員など一定の知識と経験を持っている社員に対しては「コーチ型マネジメント」が機能します。一方新入社員はむしろ「指示命令型マネジメント」を行う必要があります。「コーチ型マネジメント」が機能するポイントは、押しつけではなく、自分自身で決断と実践ができるという点です。一方的に押しつけられても部下は動きません。管理職のマネジメント手法を変えて部下の自発性を引き出してください。

 次回は、引き続き、建設業における「人手不足対策」のうち「女性活躍」について取り上げます。

※事例は厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」の働き方改革取組・参考事例一覧より一部抜粋
※【図表】管理職の求められる役割(潟Vエーナにて作成)

執筆者プロフィール

株式会社シエーナ代表取締役/社会保険労務士 吉川 直子

吉川 直子
株式会社シエーナ代表取締役/社会保険労務士
社会保険労務士/(一財)生涯学習開発財団認定コーチ。大学卒業後、アパレルメーカー、労働保険事務組合、社会保険労務士事務所等に勤務後2005年に社会保険労務士として独立。人材育成への関心からコーチングのトレーニングを2003年より開始し、プロコーチとしても活動する。その後コーチング事業を法人化し、2011年株式会社シエーナを設立。現在は、企業向けコーチング、企業研修、人事評価制度の構築、就業規則の作成、人事労務相談等を中心に活動中。プライベートでは1児の母。建設業向けの各種事業主団体や商工会議所等の講演、企業研修の実績多数。著書に「社会保険・労働保険手続きインデックス(税務研究会出版局)」「中小会社の人事・労務・人材活用図解マニュアル(大泉書店)」 「人ひとり雇うときに読む本(中経出版)」などがある。https://sce-na.com/(株式会社シエーナ ホームページ) https://sce-na.net/(社会保険労務士シエーナ ホームページ) https://kensetsu-jinzai.com/(建設業様向けホームページ)