「夢をかなえる 若手がやめない建設会社」 第8回 若手を守り、支える組織に
「”若手は、厳しい上司に耐えてこそ一人前”。そんな考え方は違うのではないかと、ずっと思っていた」。松下産業(東京都文京区)の松下和正社長はそう話す。メンタル面を含めた健康管理をはじめ、社員向けに手厚い支援体制を構築し、2016年には東京都中小企業技能人材育成大賞知事賞(優秀賞)を受賞した同社だが、かつてはこうした風潮が少なからずあったという。転機となったのは、「活躍する若手を育てているのは一部の先輩社員だけだという現実に気付いたこと」だった。理不尽な振る舞いをする上司の下では、優れた若手は育ちにくい。育成能力のある上司に部下を集めるとともに、若手を育てる人が評価されるよう社風を変革してきた。
こうした取り組みの象徴とも言えるのが、13年に設置した「ヒューマンリソースセンター」だ。配属、研修、社員の健康・メンタル管理から、結婚、子育て、マネープランといった生活面まで、社員からの相談、サポートを一手に担う。社内の部署系統から独立させ、社員を守る役割の実効性を高めた。若手施工管理職の末岡聡さんと中澤紗貴さんは、些細なことでも話を聞き、一緒に悩みや不安の解決を手助けしてくれる同センターを「若手にとって最も身近で安心できる存在」と口をそろえる。入社してすぐ大阪の営業所に配属された末岡さんは、「東京に戻ってくるたびに話を聞いてもらい、精神的に支えられた」と振り返る。女性の土木部員である中澤さんは「現場や本社の人に言いづらい悩みごとも、センターの人になら気軽に相談できる」と話す。
松下社長は「親身になってくれる人が職場にいることが心強いのではないか」とこの部署の意義を説く。「例えば、現場で職人さんとぶつかり、自分は現場に向いていないと悩んでしまった時に、相談に乗って誰でも一度は通る道だよ≠ニ教えてくれる存在がいれば、気持ちも軽くなるはず」。同センターができてから、メンタル面の不調を訴える若手社員は減ったという。
「われわれの取り組みを『若手の定着のため』と言うのは少し違う。建築や土木の仕事を志す人の夢をかなえる℃闢`いをすることで、結果として若手が定着し、活躍する企業となっていく」と松下社長は強調する。若手が働き始めてから現場に向いていないと感じたなら、設計、積算や営業といった道を示すこともある。「辞めるという選択でなく、建築が好きで入社した社員が活躍できる場所を一緒に探していけるような取り組みを続けていきたい」。若手を支え、共に歩むための組織づくりに終わりはない。(東京支社=岡田栞)
松下産業(東京都文京区)
業種 建築工事、土木工事
従業員数 237人
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