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長引くコロナ禍 懸念されるダンピング

2021/6/7 

3度目の緊急事態宣言が延長された。ワクチン接種は始まったものの、新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない不安は、しばらく続きそうだ。すでに感染拡大の第1波から1年余り。建設業ではその不安の一端が、技能労働者の賃金を反映する公共工事設計労務単価の減少という形で現れたように思う。2020年度の労務単価は特例措置により9年連続で引き上げられたが、実態は全単価の4割超で前年度より減少。伸び率は単価の上昇が始まった13年度以降で最低となった。
 これまでのところ、コロナ禍であっても公共工事の執行に大きな混乱は生じていない。21年度からの5カ年で15兆円の規模を見込む新たな国土強靱(きょうじん)化の取り組みも始まった。長年右肩下がりで推移してきた公共投資も、ここ数年は毎年20兆円前後で安定している。
 では、労務単価の伸びが鈍化した背景には何があるのか。
 気になるのは、その要因について「ダンピングが起こっていたのではないか」との声があることだ。保証会社の業況調査では、20年度の前払金の保証実績が前年度より増えている中で、建設業者の景気判断指数が落ち込んだ地域があった。保証会社の担当者も「マインドと実態がかい離している」と話す。
 コロナ禍の収束がいまだ見通せない中で、不安先行によるさらなるダンピングが懸念される。何よりも、ダンピングで泣かされるのは、いつの時代も末端の技能労働者であることを忘れてはいけない。
 受注環境について、「バブル崩壊後の『建設業冬の時代』よりはましだろう」と、大上段に構えて言うつもりはない。ただ当時、1992年度をピークに建設投資が減少、仕事量は激減し、過当競争によるダンピングが横行した。しわ寄せは上から下へ。重層構造にあって多くの下請け業者が次の仕事のためにと指し値で受注した。専門工事業は疲弊しきった。
 昨年5月に亡くなられたが、長きにわたり専門工事業を束ねてきた元大阪府建団連会長の北浦年一氏は、自身の半生を記した『建築を創る 今、伝えておきたいこと』の中で、「職人の年収は300万円。社会保険にさえ加入できない職人がほとんどで、高齢化が進み、建設技術の伝承は危機に直面している」と語っている。
 その後、2010年度を底に建設投資は上昇に転じた。国土交通省も労務単価の引き上げや社会保険の未加入対策、法定福利費の内訳明示など技能者の処遇改善に本腰を入れるようになった。
 労働条件の悪化、安全対策の不徹底につながるダンピングは、こうした取り組みにも水を差す行為だ。処遇改善を訴え続けた先人の努力も踏みにじる。建設産業が自ら時計の針を逆に回すようなことがあってはならない。
 20年度に落ち込んだ民間投資にも、徐々にではあるが回復の動きが見られるという。コロナ禍は永遠には続かない。受注者も発注者も元請けも下請けも、ここが踏ん張りどころではないか。
 「おい、お前ら。ピンハネ業者になったらあかんど」。北浦氏が会員によく言っていた言葉が、いま胸に響く。

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