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点検と連携を強化する契機に 明治用水頭首工漏水事故

2022/6/20 

農業と工業に大きな影響を与え、全国的な関心事となった明治用水頭首工漏水事故の発生から1カ月がたった。6月3日から着手した右岸での応急対応工事はほぼ完了し、現地ではポンプを使わない自然取水に移行しつつある。今後は左岸側で、原因の調査と分析、本格復旧に向けた工法検討などが進められる見通しだ。
 16日に開かれた復旧対策検討委員会の第2回会合では、魚道底版下に空洞が確認されたことが報告され、原因分析や工法検討の要点なども示された。原因究明や工法の立案は専門家からの答申を待つことになるが、この事故を機にインフラに関わる行政が考えるべき課題がある。インフラメンテナンスと危機対応の体制づくりだ。
 今回の漏水事故を受けて、農林水産省と水資源機構は5月、全国390カ所の頭首工の緊急点検を指示した。幸い異常は見つかっていないが、安心するのは早計だろう。第2回会合の調査結果を見ても、これまでの点検に課題があったことが浮き彫りになっている。
 インフラメンテの前段となる長寿命化修繕計画策定事業の創設から16年。問題が一般に認知される契機となった笹子トンネルの事故からも10年の節目を迎える。この間、メンテナンスの必要性が再認識されたインフラは増え続けてきた。記憶に新しい、和歌山市の水管橋崩落の例を見ても、各省庁と自治体は、所管するインフラの点検体制を再確認すべきだ。
 同時に、インフラに重大な事故や災害が発生した際の対応や体制も見直す必要がある。今回の明治用水の漏水事故には、予兆があった。昨年12月にも左岸付近で漏水が発生。当時は投石などで回復したため、大きな問題としていなかった。6月8日に現地を視察した金子原二郎農水相は、当時の対応への評価を避けたが、客観的に見て、多くの利水者が「渇水期の冬に対応しておけば」と考えるのではないか。
 事故が明らかになった5月17日以降も、関係機関への要請や、情報発信が遅れた印象がある。中部地方整備局は、翌18日の段階でポンプ車などを現地近くに派遣していたが、正式な要請を受けて設置できたのは22日。待たされた立場の同局職員は「緊急時の対応には慣れが必要だ」と話し、農政局の職員を気遣った。
 この言葉の背景には、防災を使命とする官庁の自負と、災害の現場での経験がある。国交省は近年、全国で多発する災害にテックフォースを派遣してきた。被災地では突発する事態に対応し、他省庁や自治体と連携する機会も多い。その中で、大きな災害が発生していない地域の職員も、さまざまな経験を積んできた。前述の地整職員は「危機が起こるたびに、この経験の大きさを実感する」という。
 経験がものをいうのは、インフラメンテナンスも同じだ。AIや3次元データの活用も期待されているが、今の点検には人が蓄積した経験と知見が不可欠となっている。それを継承する場と人員の不足が行政の課題だ。
 担い手の確保は容易ではないが、経験はできるところ、経験者がいるところに出向くことで獲得できる。メンテナンスも危機管理も、行政間の積極的な連携が、課題解決に向けた力になるはずだ。

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