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建滴 所有者不明土地と不動産業 適切な登記の在り方を探れ

2017/11/27 

民間有識者でつくる所有者不明土地問題研究会の試算によると、持ち主が分からなくなった「所有者不明土地」が2040年には全国で約720万fに達する可能性があるという。この数字は日本の国土の約2割に相当し、北海道本島(約780万f)の面積に迫るほどだ。
 推計値は「新たな対策を行わない」という前提に立って試算したとは言え、16年時点で判明している九州の面積とほぼ同じ約410万fから、20年後には1・8倍にまで拡大する恐れがあるという。少子高齢化と人口減少が土地利用機会の喪失に拍車を掛けている現状をみると、よほど有効な手段を講じない限り所有者不明土地の増加を抑止することは困難だろう。
 この衝撃的とも言える試算結果を受けて、不動産業界は問題解決への糸口を探ろうと、これまで以上に議論を深め、団体間で所有者不明土地が抱える課題を共有するようになった。いずれ業界にも大きな経済的損失を与えかねないことに改めて危機感を持ったからだ。
 その大きな理由は、これまでは山林や農地など山間部に多かった所有者不明土地が、近年は住宅地や市街地でも目立つようになってきたからだ。人口減少に伴って土地の需要が減っている地方都市などを中心に、所有者が税負担や管理の手間を敬遠する傾向が強まっている。中でも、所有者が死亡した物件でその傾向が顕著に現れている。
 所有者死亡の場合、通常は相続人が不動産登記簿に相続登記を行う。ただ、登記は任意であるために「遠方や地方の資産価値の低い土地を抱え込みたくない」などの理由で意識的に登記を先送りし、故人名義のまま放置している空き家も少なくないとみられている。
 特に、地方に拠点を置くデベロッパーなどは、この状況に一層、危機感を強めている。多くの地権者の同意が必要になる大型プロジェクトを実施する際、計画予定地の中にたとえ1筆でも所有者不明地があれば、判明した時点で事業がストップする恐れがある。所有者の特定に何年もの期間を要し、その作業に当たる間の手間と経費はばかにならない。最悪の事態として、事業を断念せざるを得ないケースさえ考えられる。
 所有者不明の空き地が地方都市におけるまちづくりの障害になってはならない。「所有者の権利」は尊重する必要がある。だが、相続登記を強制化するか否かの議論を含め、不動産業界は土地の登記制度を所管する法務省に対して、もっと意見をぶつけてもいいのではないか。不動産を通じてまちの実情に精通した立場から、登記が適切に行われるよう政策的に誘導する抜本的な方策や、新たな制度の創設に対する提言を行う必要がある。
 このまま市街地での所有者不明土地が増えれば、ごみの不法投棄などの環境や治安の問題が多発しかねない。経済的な損失も計り知れない。
 国土保全の観点からも所有者を特定できる仕組みの構築が急がれるのは言うまでもない。すぐに妙案を見いだすことはたやすいことではないが、次の世代にも通用する網羅的で信頼性の高い土地制度の構築に向けて、不動産業界は実業の面から知恵を絞り、意見を出すべきだ。