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ハードからソフトを考えたい

2018/3/12 

「働き方改革」というフレーズが街にあふれている。国会では、「働き方改革関連法案」を巡り、政府・与党と野党が攻防を繰り広げている。労働力人口の減少が避けられそうにない日本にとって、働き方を見直し、生産性を向上することは今や、官民を挙げての一大テーマとなってきた。であればこそ、オフィスワーカーが一日の大半の時間を過ごす職場環境の改善にも目を向け、ハードからもソフトの充実を考えたいところだ。
 大手デベロッパーの中には、新たな働き方を提案するオフィスづくりを実践している企業も表れ始めた。
 そのうちの一つ、自らのオフィスを実証実験の場として利用する取り組みを始めた三菱地所(東京都千代田区)は、1月の本社移転を契機に、従来のオフィスレイアウトを一新。毎朝、自席を自由に選択できるグループアドレスを導入、事業担当役員の個室を撤廃した。全体面積の3分の1が共有スペース。業務スペースには立ったままパソコン操作ができる高さの机や、個人ブースを配置。所属を一固まりにしたような、これまでのフロアとは一線を画す。
 これらの企業では、テレワークを拡大し、仮眠制度やインターバル勤務制度を導入するなどハード面の改革と連動して社内制度を刷新した。他のデベロッパーも、働くスタイルや場所をワーカー自身が選択できるコワーキングスペースやサテライトオフィスなどの供給に力を入れ始めている。IoTやAIの技術導入が進むにつれ、この流れはさらに強まることが予想される。会社に通勤せずとも仕事ができるようになれば、オフィスの備えるべき役割や機能も変える必要がある。
 テナントとして入居する企業側でも、オフィスの拡張や移転への需要・関心が高まっている。
 オフィスビルのテナント仲介を手掛ける三鬼商事(東京都中央区)の調査によると、都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷区)の2月現在の空室率は3・03%で、低水準を維持している。
 こうした状況を生んでいる理由は、好調あるいは堅調な業績もさることながら、働く環境がいかに社員のモチベーションに影響するかを、企業の経営者が重要視し出した一つの証ではないか。優秀な人材を確保する上でも、職場の立地条件を含めたトータルな働きやすさを提供することは企業の魅力を高める要素の一つとなっている。
 このような多機能なオフィスの需要は「どうせ、大都市部の大企業に限定されているはず」という見方もあるかもしれない。ただ、東日本大震災の発生後、BCP対応の重要性が認識され、減災・防災機能の強化が当たり前になったように、オフィスの機能もまた、企業の規模や立地によらず、時代の要請に合わせて変化し続けていくことだろう。
 街づくり・ものづくりを担う不動産業・建設業だからこそ、新しい働き方については、提案できることがもっとあるはずだ。まずは形から、というわけではないが、「働く場」の現状を見直し、改めることが、真の「働き方」を追求していくモチベーションを生み、生産性向上の実現につながる道となるかもしれない。