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AI時代と建設産業 未来を描ける人をつくろう

2019/12/27 

この国の未来を左右する「分水嶺」となるかもしれない2020年の幕開けだ。登るべき山の全容が捉えられない、だから登坂ルートも分からない。五里霧中の中で、つかの間足元を照らしてくれたオリンピック・パラリンピックという燈火はまもなく消える。であれば、私たちは何をすべきか。官民問わず、いまやるべきことはただ一つ。人的資本の質の向上、言い換えれば、ものごとの本質を洞察し、考え、自分の手で未来を創造しようとする人をつくることだ。
 国内にあっては国、自治体ともに財政がひっ迫し、自然災害が多発・激甚化している。医療・介護をはじめとした社会保障制度の持続も危ぶまれている。海外に目を向ければ、自国第一主義の台頭によって世界経済は不透明感が増し、北朝鮮や中東情勢なども相まって、経済の下ぶれリスクが顕在化している。
 この数年、業績が好調・堅調に推移した企業は多かった。ただ、過去の失地回復を優先する余り、人材確保を単なる「員数合わせ」に、人材育成を自社都合の「促成栽培」に終始するようなことはなかったか。
 厚生労働省の能力開発基本調査によると、人材育成に「問題がある」と考えている事業所は有効回答の7割に達しており、その理由として最も多かったのは「指導する人材の不足」と「時間の不足」だった。人材育成を効果的・効率的に行うために何が必要か―との問いには「上司の育成力や指導意識の向上」との答えが最も多かった。
 こうした実態とは裏腹に、この国は「働き方改革」と「生産性向上」が官民共通の最重要テーマとなっている。いよいよ中小企業にも改正労働基準法に基づく残業時間の罰則付き上限規制が4月1日から適用される。
 いまほど、これからの時代を生きていく、生きていかねばならない人たちに対する経営の責任と思考力が問われている時はないのかもしれない。だからこそ、即戦力だけでなく、絶えず「問題の本質」を的確に捉え、自分が何を成すべきかを考え、行動しようとする「環境変化に適合」できる人材の獲得、育成こそが不可欠だ。
 先ごろ厚労省から19年人口動態統計の年間推計が発表された。19年生まれの子どもの数が86万4000人となって、初めて90万人を割り込んだ。さらに衝撃的だったのは、国立社会保障・人口問題研究所が発表していた17年時点の将来推計より2年も早く、この国の出生数が86万人台にまで減少してしまったことだ。
 加速する少子化という大波が、この国の未来に大きな影を落とす一方で、不足する労働力人口を補い、生産性向上にも寄与すると期待されてつつ、もろ刃の剣になるかもしれない技術の一つがAIだ。
 画像解析や医療から始まったとされるAIの深層学習能力による応用分野は、もはや無限と言われている。防災・減災のみならず、交通やエネルギー分野、構造物などの維持管理にまで関与する分野を広げている。中でもデジタルトランスフォーマー(DX)を体現する空間になると思われる(超)スマートシティの構築には、GAFAをはじめとしたデジタル分野のプラットフォーマーや、ビッグデータの活用で先行している国内外の企業がこぞって参入してくることが予想される。
 国内外のAIをめぐる経済動向に詳しい学識者などは、その「DXが産業分野の垣根を破壊する」と予測する。すでに多くの業界でボーダレス化が進行している。20年は5Gの社会実装も相まって、建設産業でも異業種からの参入が急増する、そんな1年になる可能性もある。
 建設産業のプレーヤーは、建設ものづくりはなくならない―などと楽観している場合ではない。自らが行くべき道をセンシングし、進むべき未来を描くことのできる人づくりこそ、この産業が、そして個社が、持続可能性を高めるために避けて通れない最優先課題だ。