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建設分野のオープンイノベーション

2020/8/31 

新技術の開発により、生産性を向上させようという取り組みが建設業界でも加速している。国土交通省は2020年度から直轄土木工事での新技術活用を原則義務化した。現場で試行導入した新技術についても、検証結果を踏まえた上で直轄事業の基準・要領へ位置付けるなど、民間発の技術を取り入れる姿勢を鮮明に打ち出している。
 大手ゼネコンなどもこうした流れに歩調を合わせる。ICT化や働き方改革・生産性向上などが求められる中で、研究開発費を積み増し、新技術開発に注力している。
 一方で、気がかりなのは、中小建設業がこうした新技術活用の動向から取り残されていないかという点だ。
 外部から提供される新技術を受け身で活用するだけでは、競合他社との差別化はできず、大手との生産性の格差は拡大するばかりだ。とはいえ、数十億円〜数百億円規模の研究開発費を毎年投じることができる大手とは異なり、中小建設業が新技術を単独で開発し、現場に実装するハードルは高い。中小企業庁の19年度の調査でも、研究開発に取り組む中小建設業の割合はわずか0・7%で、全産業の中小企業の平均2・2%と比べても低い水準だった。
 ここで注目したいのが、ニーズを抱える企業と、解決につながるノウハウを保有する異業種の企業が協力して新技術を開発する「オープンイノベーション」の取り組みだ。
 政府はオープンイノベーションを中小企業支援の柱の一つと位置付け、関連する施策を展開している。中小企業基盤整備機構が、企業間でニーズと保有技術の情報を交換できるサービスを19年度に開始。オープンイノベーションの最大の難所である「マッチング」を支援している。特許庁でもオープンな技術開発による成果を保護するため、企業が協業する際のモデル契約書を整備した。
 建設業界では、一部の大手ゼネコンで取り組みが進んでいるものの、中小建設業が経営戦略の中核にオープンイノベーションを据えた例は、あまり聞こえてこない。
 複数の企業が強みを持ち寄るオープンイノベーションは、自社内に十分な研究基盤を持たない中小企業にこそ有効だと言える。人工知能(AI)や仮想現実(VR)、ドローンなど、かつてはSFの小道具だったようなツールが近年、急速に一般化した。新技術開発でのポイントは、こうしたツールをいかに課題解決に生かし、ビジネスとして確立させるかだ。
 地域に密着し、気候や地理条件にも詳しい地域の中小建設業は、イノベーションに最も必要な現場のニーズを把握していると言える。また、意志決定に比較的時間のかかる大手ゼネコンに対し、中小の製造業やITベンチャーと同じ目線でスピード感を持って現場実装に取り組むこともできる。
 新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向け、遠隔臨場やロボット活用などの三密対策が注目を集めている。今後も建設現場は社会・経済状況の変化に応じてめまぐるしく変わっていくだろう。自ら新技術を開発し、変化に対応する力を持つことは、地域の守り手である中小建設業の事業継続性を高めることにもつながるはずだ。