懸念される建設投資の減少 「同じ轍」は踏みたくない
2020/6/8
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新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う建設投資の減少、中でも民間建設投資の減少が懸念されている。建設経済研究所と経済調査会は、5月にまとめた建設投資見通しで、2020年度の建設投資が名目値で前年度比1・7%減の60兆7500億円となり、6年ぶりに減少すると予測した。ここで危惧されるのは、2000年代に横行したダンピング受注の増加だ。
20年度の建設投資見通しは、民間住宅投資は6・0%、民間非住宅建設投資は4・2%、それぞれ減になると予測している。東京五輪に代わる新たな好材料が見当たらない上に、消費増税に伴う駆け込み需要の反動減も見込まれている。ゼネコン各社の決算発表を見ても、減益予想が相次ぎ、設備投資計画の見直しなどによる受注減に警戒感が高まっている。
日本経済は、これまでもいくつかの経済危機を経験している。リーマンショックの直後、09年度の民間建設投資は前年度を20・4%下回り、25兆0301億円まで落ち込んだ。
現時点で考え得る影響のうち、最も懸念されるのがダンピング受注の増加だ。建設投資の減少に歯止めがかからなかった2000年代、建設産業が抱える最大の課題こそ、過当競争が引き起こした過度のダンピング受注だった。
ダンピング受注による元請け企業の利益低下の影響は、そのまま下請け企業に及ぶ事態を生んだ。元請けは1次下請けに、1次下請けは2次下請けへと、上位者から下位者へ低価格での受注を強制。技能者の給与をカットするところまで下請け企業を追い詰めた。
10年以上にわたって続いたこのデフレスパイラルは、若年層を建設業から遠ざけ、この業界を深刻な担い手不足へと追いやる最大の要因になった。
この間、数度にわたって行われた公共工事の低入札価格調査基準の引き上げは、ダンピングを抑制し、この悪い流れを断ち切るためのものであった。
05年には品確法が制定され、価格だけにとらわれない総合評価落札方式の導入を拡大し、その後に行った改正で公共工事の発注者に適正に予定価格を設定する意識改革を求めた。社会保険加入対策も精力的に進められ、他産業と比べて大きく劣っていた社保加入率は大幅に改善したし、建設技能者の処遇改善などを目的とした建設キャリアアップシステムの普及も現在進行形で進められている。
この間、こうした「品質」と「働く人」を大切にしようとする政策が進められてきたのは、安易な低価格受注が、この建設業界を衰弱させてたという教訓と、大いなる反省があったからではなかったか。
パンデミックはいまだに収束の気配を見せていない。想定される以上に経済の下振れリスクは大きく、この先、建設投資の減少は避けがたいのかもしれない。もし、そうだとしても、建設業界はダンピング受注の横行に苦しんだ苦い過去の経験を思い返し、決して同じ轍(てつ)を踏んではならない。これまでの官民挙げての努力を無に帰すことのないよう、建設生産システムの持続可能性を確かなものとするための「歩み」を続けたい。
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