好循環の流れを絶やすな 賃上げと経済再生
2021/12/20
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今年は労働者の賃上げに注目が集まった1年だった。
岸田文雄首相は11月に開いた「新しい資本主義実現会議」で、政府として企業の賃上げを支援するための環境整備に取り組む方針を打ち出した。保育士や幼稚園の教諭、介護職員を対象に、収入を3%程度引き上げる措置を講じる他、業績がコロナ前の水準に回復した民間企業に対し、来年の春闘で「3%を超える賃上げを期待する」とも呼び掛けた。
さらに、12月の臨時国会で岸田首相は「賃上げに取り組む企業を税制面で優遇する」とも強調。その上で、建設業が他産業を大幅に上回る年平均2・7%の賃上げを実現したことに触れ、「こうした官民協働の取り組みを他業種にも広げる」との考えを示した。
他産業を上回る年平均2・7%の賃上げを実現したとは言え、建設業の賃金上昇の動きには失速の兆しがある。今年3月、現場の技能者の賃金実態を反映した公共工事設計労務単価が9年連続で引き上げられた。ただ、コロナ禍の特例措置もあって上昇基調を維持したものの、伸び率は全国全職種平均で1・2%増となり、この9年で最低だった。
こうした実態に危機感を持ち、国土交通省は建設業4団体に呼び掛け、2021年度に技能者の賃金上昇率を「おおむね2%以上」を目指すことで合意した。その後、適正な工期の確保、施工時期の平準化、元請け・下請け間の適正契約の徹底、ダンピング対策などに官民で取り組んでいる。
医療、介護分野と同じように、建設産業もインフラ整備を通じて国民の安全で安心な暮らしを支えている。自然災害が頻発・激甚化する中、「地域の守り手」として、この産業が果たす役割はさらに大きくなる。
建設業では他産業に先行して賃上げの動きが始まっているが、技能者の処遇改善には、その原資として企業の十分な利益確保が必要なことも忘れてはいけない。発注者には賃上げに必要な事業量の確保や適正価格での発注を求めたい。
経済協力開発機構(OECD)の調査によると、先進国の平均賃金が1990〜2020年の30年間に、主要国で大きく伸びたのに対し、日本は低迷。賃金の伸び率は、OECD全体で30%以上上昇する一方、日本は7%にとどまった。この間、物価の伸び率も他国と比べて鈍い。
岸田内閣の経済政策が目指しているのは、働く人の賃金上昇を起点として企業の生産性と業績をアップし、コロナ禍で落ち込んでいる日本経済を再び成長軌道に乗せるところにある。
建設投資の増加も追い風に、この10年の建設業には、この好循環ができあがりつつあった。この流れを絶やしてはならない。
「賃金が上がらなくても物価が安ければ何も問題はない」という見方もある。しかし、賃金は労働者の労働意欲と密接に関係する。賃金が上がらない状態が続けば、労働者の仕事に対する意欲は低下するだろう。逆に、賃上げによって労働意欲が上がれば、企業の業績や生産性の向上、労働者と企業との良好な関係構築にもプラスに働く。このことは日本経済再生の原動力にもなるはずだ。
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